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アーリョ・ショウナン裏話=炉辺談話=荒木桃里=(1)

手製のドラム缶ストーブ

手製のドラム缶ストーブ

 「ほう、機関車のようなものを据えたね」
 大貫はコップをかかえながら、鹿内善造が手ごろに割ったマキをストーブにほうりこむのを見てそう言った。
 六月になると、サンタ・カタリーナ高原は大霜に見舞われる日が多くなる。ことに雨天が二日続いた後は、急速 に大地が冷えこんで、南から吹いてくる風は、針をふくんだように衣服ごしに肌をさし、翌朝は霜になる。
 そうなると、移住地の家々からは、屋根上1メートルも突き出したブリキ製のエントツから、吐き切れないほどの煙が横に流れ、それが吹きちぎられて山に畑に消えて行く、その時、雄鶏の頭に似たガーロと呼ぶエントツ覆いが、首をふりながら「きしきし」と悲しげな音をたてる。
 善造は、百リットル入りのドラム缶を屑鉄屋で見つけ、それを横にねかせてストーブを作った。焚き口は蝶番を取りつけて、大きく口を開けたのでかなりの割木まで燃やすことができる。
 マキはお手のもので、移住地も相当に開拓は進んでいるけれども、まだまだ不自由しない。今年になって還暦祝いを済ませた善造の家には、大げさにいえば千客万来というか、霜が降りる季節になると、寒さに負け、仕事をやめた人々がストーブを目ざして集まってくる。
 それは善造が大のピンガ好きであるのと、だれからも「鹿さん、鹿さん」といわれる組みしやすい人の良さ、その両方が一致しているからであろう。
 今日も大貫は、「いつも鹿さんにばかり呼ばれるので」といって五リットル入りのピンガを提げて来た。そしてカゴ編みにしてある大瓶を足首ではさみ、螺旋の栓抜きでスッポンと音をさせると、器用に肩にかついで、コップを顔の前に受けてなみなみとピンガを満たした。
 ストーブの周りは、ぐるりと平板で囲って足がつけてあり、それがテーブルになっている。横にねかせてあるドラム缶の上面は、たたいて平らにしてあるので、その上にのせてある大薬缶は、しゅんしゅんとお湯がたぎっている。
 屋外では霜がおりようが雪がふろうが、ここに腰をおろした者は時がたつのも忘れる。
 こうして炉辺の話がはずんでいく。

 「それでは何キロ持って来てくれたのかね」
 鹿さんは待ち切れずに大貫に聞いた。「五十キロ持って来たよな、鹿さん、あんたの注文は百キロだったけれど、あっちからもこっちからも分けてくれといわれれば、どうも義理があるから断りきれんでね・・・・・どうもすみませんが、今年はこれを種にして殖やしてくれんかね」