サンパウロ市出身の非日系の男性演歌歌手エドアルドさん(31、プロダクションオーロラ所属)が、21日にテイチクレコードより「母きずな」でデビューすることが決まり、スポーツ報知7日付や日本のポ語雑誌アウテルナチーバでも大きく報じられるなど異例の注目を浴びている。生後すぐに日系二世ナツエさんの家に預けられ演歌を聞いて育ち、カラオケ指導者の北川彰久さんに師事して日本語や礼儀作法まで学んだ。2010年に母と共に訪日し、アルバイトをしながら苦労して歌の練習を積み、遅咲きデューを飾ることになった。「日本とブラジルをつなぐ大きな架け橋になりたい!」。母親想いの青年が大きな夢に向かって一歩を踏み出した。
「母が一緒にいてくれたから、いくつもの苦労を乗り越えられました」。育ての母ナツエさんに関する本紙からの質問に対し、エドアルドさんは流暢な日本語をメールで書いて答えてきた。
01年に日本アマチュア歌謡祭グランプリ大会で優勝。10年、日本大衆音楽祭全国大会で内閣総理大臣賞。現在は有名歌手が在籍する事務所に所属し、今月21日に「母きずな」で演歌歌手デビューする。しかも作詞を担当したのは、ブラジル出身の先輩マルシアのデビュー曲「ふりむけばヨコハマ」を作詞したたきのえいじさんだ。
経歴だけを見れば、とんとん拍子で出世してきたようにも見えるが、彼の人生は最初から苦労の連続だった。生みの母ジョゼッファさんが子育てできる状況になかったため、生後すぐにナツエさん(二世、61)に預けられ、演歌歌手となるきっかけが生まれた。
祖母ミサオさんとは日本語で話し、叔父の勝弘さんは演歌好きでよく歌っていた。家には日本の歌番組のテープが多くあり、それを見て育った。特に美空ひばりの歌に魅かれたという。歌が好きだった彼は、13歳で北川音楽事務所の北川彰久さんに師事した。
北川さんは最初、忙しいから断るつもりだった。しかし「よろしくお願いします。お金も無いんです!」と単刀直入に言ってのけた彼が気に入り、面倒を見ることに。毎日のように通ってくるエドアルドさんに、クラシックを基盤とした声楽理論から感情が伝わる歌い方、日本語と礼儀作法まで厳しく指導した。
北川さんは「声の素晴らしさだけじゃない。人懐っこくて誰からも可愛がられる性格」と評する。訪日直前、生みの母のジョゼッファさんと再会した。「素晴らしい日系家族へ預けてくれたことに感謝している」と伝えた。
10年にナツエさんとともに訪日し、アルバイトをしながら歌を練習。14年6月から作曲家あらい玉英さんに師事し、作詞家たきのえいじさんとの出会いで「母きずな」が生まれた。
北川さんは「二人の母の面倒を見ると言うんだから、歌だけじゃ足りない。どんな時も仕事が取れるよう、司会やお笑いもできるマルチタレントになってほしい」と期待を寄せた。
関連コラム 大耳小耳
マルシア以降、日本の芸能界で成功したブラジル出身者は見られない。ブラジル日本アマチュア歌謡連盟(NAK)会長の北川好美さんは、その原因を「日本語力不足」だと分析する。番組司会者の話が理解できる、台本が読めるというのは芸能人として必須だろう。その点、エドアルドさんは読み書きまで堪能。記者がメールで送った35個の質問に、日本人と変わらない文章で答えてきた。今後、日本での活躍が期待できる逸材だ。