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地震と自然のかかわり(1)=サンティアゴ在住 吉村維弘央

 防犯を目的としたカメラの設置が町のあちこちに進み、さまざまな出来事の解明に側面的にかなりの成果を収めているらしい。スーパーマーケットあるいはコンビニ等に置かれている防犯カメラも、当初の目的は盗難の監視だったのだろうが、設置されたカメラはその被写体を選択するという訳では無いので、時として面白い現象を提供することになる。
 この部類の一つでこれは面白いと小生の興味を引くものがあった。それは北米カリフォルニア地区で地震が発生した時に、さるコンビニのカメラに記録されたものだ。
まず、その日もコンビニ店のオーナーペットである中型犬が、いつもの様に店の中で寝そべっていた。ところがこの犬が突然飛び起き、大慌てで店の外に飛び出した。何事が起きたのかと店員が訝る間もおかず、グラグラと地震が起き、棚に並べてあった様々の商品が飛び散ったと言うものだった。
 これは、人間が既に失ってしまった自然の予知機能を、犬はまだ失っていないと言うことだと理解される。
 1985年に、ここサンチアゴのほぼ真西にあたるサンアントニオ地区で起きた地震の時にも、震源地より直線で100キロ以上も離れた所にある養鶏所の鶏が地震発生前に一斉に慌しく飛び上がり、泣き叫び、どこか逃げ場所が無いか走り回ったと言う話とか、同じ時間に犬が尻尾を尻の間に挟み込み、か細い泣き声を出し、ふるえ、涙を流していたとか言う話も同じ現象と理解できる。
 今回(2010年)M8・5の地震に見舞われ壊滅状態になったタルカワノ地区にある高炉ウワチパトの復旧に、日本より災害復旧支援技術ミッションが派遣された。このミッションのメンバーは、神戸大震災で同じような被害を受けた神戸製鋼の技術者達が中心で、これらの技術者達の通訳を受け持ち、ミッションに参加させて貰った。仕事の打ち合わせには当然地震発生時の状況説明がからむが、この延長線で地震に関連する様々な興味ある話が聞けた。
 次の2つの話が面白い。

【その1】チリは魚粉生産世界第二位であり、北部のイキケ地区はイワシを主な原料とし、南のカルカワノ地区はアジを原料としている。
 タルカワノは人口ほぼ60万人を数え、魚粉、魚油、缶詰、冷凍魚を扱う複数の生産会社が合計35の工場を稼働し、直接従業員の数はほぼ1万3千人いるとされている。
 町に近づくと辺り一面に魚の臭いが充満している。港には数多くの漁船が係留され、魚粉工場から排出される下水出口周辺には、かもめ、ペリカン等が多数ひしめき合って喧騒を撒き散らしている。これらの鳥の数は吃驚するほど多く、辺り構わず撒き散らす鳥糞の被害は日常茶飯事だ。
 ところが、これほど多いかもめ、ペリカン、浜辺鳥等が、地震発生1日前に突然どこかに姿を消してしまった。鳥たちのたてる甲高い喧騒はなくなり、一転して静寂そのものとなった。この現象を目の当たりにして、海辺を生活の基盤とする人達は何か予期せぬ事が起こるのでは無いかと言う漠然とした不安に駆られたと言う。勿論、地震が終わった後は又これらの鳥が戻って来た。
 地震が残した爪痕は深く、地震が収まった後で曲がりなりにも生産再開が出来た工場は魚粉工場4つ、缶詰工場2社、冷凍魚工場2つと合計8社しかなかった。

【その2】タルカワノ地区、それに隣接するコロネル地区、トメ地区は中小漁民が数多く住んでいる地域で、浜辺の貝類、タコ、岩場の魚等を捕獲して生活をしている。
 地震発生当日、コロネルを拠点とする3人の漁師が、浜辺より少し離れた岩場で岩つきの魚と、その付近に棲息するあわびを採るべく前日の夕方から小さなファイバーボートで出漁をした。潜水服を着込み、簡単なエアーコンプレッサーから送り込まれるエアーを取る為のプラスティックコードを口に咥え、勝手知ったお馴染みの岩場近くの海中で作業をしていた。
 ところが、突然、小魚も含め目の辺りに見えていた魚の群れが消えてしまい、不思議だと思い始めて数分後に海がにごり始め、異様な音が水に響き渡って来た。何事が起きたのか起きるのか分からぬままに、とにかく慌てて命綱を引き、船中に残っている仲間に船に引きずり上げて貰ったが、その後、一時もおかずに船は津波に押し流され、気が付いた時は浜辺に近い丘の上に船もろとも投げ飛ばされていたと言う話だった。

 これらの話はいずれも、地震が起きると、その周辺にいる動物、魚などがどのような行動をとるのかという類の話だが、動物が見せるような予知感覚の薄れてしまった人間はどうなんだろう、という疑問が起きる。

タルカワノの港

タルカワノの港

(Foto By Zzelocaro (Marcelo Caro Frías) [GFDL (httpwww.gnu.orgcopyleftfdl.html) or CC BY-SA 4.0-3.0-2.5-2.0-1.0 (httpcreativecommons.orglicensesby-sa4.0-3.0-2.5-2.0-1.0)], via Wikimedia Commons)