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イタイプー〜ヴィリャ・アジェス市間高圧送電線の工事完成式典で。左から2人目がパラグァイのオラシオ大統領、右から2人目がジウマ大統領、最右端がグレイシー上議(Foto: Roberto Stuckert Filho/PR, 29/10/2013)

イタイプー高圧送電線疑惑=ほぼ同じ工事で2倍の差=ルーゴ政権と伯PTが癒着?=パラグァイ 坂本邦雄

 ルーゴ政権時代の2011年に、メルコスールの「構造格差是正基金・FOCEM」の資金をもってイタイプー巴伯双国水力発電所及びANDE・電力公社に依り建設されたイタイプー~ヴィリャ・アジェス市間(アスンシォン市対岸チャコのHayes県の同名県都で、米ラザフォード・ヘイズ大統領の名に因む)の348キロメートルに及ぶ500kv直流高圧送電線の落札価格(CIE-Elecnorが受注)が1億7千万ドルだった。それに対し、今回欧州投資銀行の借款による、ヤシレタ巴亜双国水力発電所のアジョラス市から同ヴィリャ・アジェス市間の、全く類似の技術仕様の363キロに亘る幹線高圧送電線工事を、前者の約半額の8900万ドルで、CIEsomagecが落札した事が大きな問題になっている。

 いかに2011年当時と今の2015年の間に為替変動やその他様々なファクターの影響があったにしても、この法外な工事金額の大差は常識では考えられない。
 ちなみに、両者いずれの落札コンソーシアムにも当地のCIE社㈱が参画している。カルテス大統領はこのハプニングを重視して、「特別調査委員会を設置し、イタイプー及びANDE各当局に対し、問題の究明を徹底すべく命じた」と、自分のツイッターに書き込んだ。
 これに対応し、国家会計検査院は早速イタイプー企業及びANDE・電力公社に対し、10日以内に工事受注コンソーシアム・CIE-Elenorとの契約経緯に関する全ての資料の提出方を求め、徹底的に監査を行う事になった。
 一方、ウルグァイの「電気工学研究所」の コスト計算を参考までに照合すれば、高圧送電線の架設工事単価はkm当り30万ドルで、件の2011年に完成したイタイプー~ヴィリャ・アジェス間送電線のコスト単価の50万ドルよりも遥かに低く、オーバーインボイス(適正価格に汚職金額を上積みすること)の疑いは明らかである。

世界最大級の発電能力を持つイタイプーダム(Foto: Itaipu Binacional)

世界最大級の発電能力を持つイタイプーダム(Foto: Itaipu Binacional)

伯PTの関与の可能性

 このようなパラグァイ政府の〃イタイプー監査〃の異例な立入り調査の動きの反響でブラジルのマスメディアは、このオーバーインボイスの問題にPT・労働者党が当時大いに関わった疑惑は確かに有りそうな話だと解説した。
 「かつて2011年に架設施工された送電線が今年の同種、同仕様、同規模の工事費の二倍もしたデタラメが有っても良いものか? PT・政権与党が関わった事業だったら然もあらんと頷ける。しかり、パラグァイは正にその犠牲になったのである」と、ヴェージャ誌のヂオゴ・マイナルディとマリオ・サビノ両元記者は書いた。
 同じく、ガゼッタ・ド・ポーヴォ紙も、FOCEMを通じてブラジルが調達した当該資金1億7千万ドルを以って竣工したこの500kv幹線高圧送電線架設工事に触れ、今回のヤシレタ巴亜双国水力発電所から同ヴィリャ・アジェスまでの殆んど同距離、同仕様の送電線架設工事が前者に比し、なぜこんなに安上がりに出来るのかと、その疑惑を指摘した。
 オ・アンタゴニスタ紙(対抗)の複数の調査報道記者も、2011年に行われたこの送電線施工コンソーシアムには、パ国CIE社と組んだスペイン系のElecnor社は、2006年にルーラ大統領再選に1200万レアルを献金した企業群の一員だった事、及びオ・エスタード・デ・サンパウロ紙は2011年には16億ドルの優遇特恵契約等の見返り補償として政治献金したSchain Engenheria社が本件に深く関与した事実を連邦警察の検察資料に基づき暴露した。

グレイシー上議とも深い関係?

 なお、ブラジルの報道機関は本件で采配を振ったイタイプーのブラジル側総裁ジョルジ・サメック氏は、ルーラ政権時代の経済企画庁元長官パウロ・ベルナルド夫妻と緊密な関係があり、同グレイシー・ホッフマン夫人は現連邦上院議員で、夫妻ともPT・労働者党に属し、パラナ州で重きを為す実力者であると報じた。
 同じく、例のペトロブラスのメガ汚職事件に係わり、目下拘禁中のPT・労働者党の元財務担当で、一時はイタイプー双国企業の幹部役員も務めたジュアン・ヴァッカリ・ネット氏も槍玉に挙げられている。
 次いで、前述のホッフマン夫人は以前イタイプー双国企業で財務管理役を勤めていた経歴があり、サメック総裁とは長年の友好関係にあって、2006年に彼女が連邦上院議員に立候補の為にその職を辞した際は、サメック総裁の絶大な支援があったと言われている。
 そして、当の誇るべきイタイプー巴伯双国水力発電所は別名『パンドラの箱』と呼ばれ、PT・労働者党が政権を握った以降は正に「前代未門の不条理なデタラメ発電プラント」に変じて仕舞ったと悪評されているのである。

ジウマとチャベスの密約

 また、話は別だが去る10月24日(土)付のフォーリャ・デ・サンパウロ紙は、2011年にジウマ大統領はベネズエラの今は故人のチャベス前大統領と密談の席上、同国悲願のメルコスール正会員国加盟の早期実現を約し、その為には従来は強硬に反対して来たパ国ではあるが、今度はルーゴ大統領との交渉で、イタイプーのパラグァイ側余剰電力の買い上げ価格の抜本的な改善を条件に、鋭意その説得に努めている次第を明かした、と報じた。
 これが、その後ジウマが述べた様に実現した事は周知の通りであるが、その裏の秘話を聞いて面白くないのはパラグァイ政府である。
 最近、イタイプー双国企業のパラグァイ側のジェームズ・スポルディング総裁はカルテス大統領との面会後、ブラジル当局に対し然るべき釈明を求め、事態の収拾を図りたいと大統領府での記者インタービューで語った。
 但し、ベネズエラのメルコスール加盟を条件にパラグァイに対するイタイプー余剰電力の売買価格改善の交渉に直接係わった当時のルーゴ政権にも問題の実態を開陳する責任があると、スポルディング総裁は述べた。
 あれやこれやの〃ご災難続き〃で政界の風向きが変わった最近、PT・労働者党のジウマ大統領は一連の苦労続きで大変である。