以前からテロの標的として「原発」が挙げられ、映画やドラマも作られてきた。現在、「イスラム国」最大の標的、仏米はともに最大級の原発依存国だ▼イスラエルを視察したという日本の研究者と数年前、昼食を共にした。彼は現地科学者と交流した際「秘密裏に原爆を持つほど技術力があるのに、なぜ原発を作らないのか?」と尋ねた。答えは「原発は上からの攻撃に致命的な弱点がある。放射能の悪影響は何百年と続くから国土の狭い我が国ではリスクが高すぎる」だったと聞き、ショックを受けた▼原爆を落とされても人は住めるが、原発が爆発したら住めなくなることは、悲しいことに日本人が誰よりも良く知っている。敵国に致命的なダメージを与えたいなら「複数の原発を狙う同時多発テロ」―これ以上の攻撃はない▼法律家ルイス・フラヴィオ・ゴメス氏の19日付コラムによれば、仏国民の7・5%(500万人)はイスラム教国移民と子孫だ。仏国籍の二世世代になっても多くが貧困地区に集住し、キリスト教白人社会と住み分け状態にある。7万人の仏刑務所人口のなんと6割がイスラム教系。そこで過激派と知り合って「イ国」に誘われ、1200人が渡ったとある▼テロを生む温床は自らの格差社会と差別体質…。自分が生まれ育った国を、テロ攻撃するほど憎むようになったのは、なぜか。それに目を瞑り「イ国」空爆で問題解決する―という発想に、矛先を逸らす政治的な意図はないか▼日本は狭い国土に50基以上の原発を作った。広島、長崎の教訓を甘く見ているとしか思えない。本気で有事を想定するなら、経済発展よりも国民の安全を優先すべきだろう。(深)