イスラエル人のイラーナ・ロマノさん(69)は43年間、一つの目的のために戦ってきた。1972年のミュンヘン五輪で起きたテロ事件で亡くなった重量挙げ選手で夫のヨセフ・ロマーノ氏ら、11人のイスラエル人選手追悼のため、国際五輪委員会(IOC)が五輪開会式で1分間の黙祷を行う事を求めているのだ。
IOCは今日までミュンヘン五輪テロ事件犠牲者のための公式追悼行事を行っていないが、それが来年のリオ五輪で覆される可能性がある。
IOCが、五輪村に追悼の場所を設ける事と、閉会式でこれまでの全ての五輪で命を落とした人への黙祷を行う意向である事を発表したのだ。
ミュンヘン五輪のテロで亡くなった選手達のほか、2012年以降、7人の選手が大会での競技中またはトレーニング中に命を落とした。1996年のアトランタ五輪では、爆弾事件で観戦客が1人亡くなっている。
ロマーノさんは遅まきながらも誠意を見せたIOCの努力を評価しているが、IOCがもっと明確な形でテロを非難することと、テロの犠牲者への追悼の意を表することを求めている。
ロマーノさんは最近、ニューヨークタイムズ紙(NYT)に、性器切断という残虐な方法で殺されたヨセフさんの写真を公開した。
NYT紙は、テロリスト達から拷問にあったその他の人質の前でもだえ苦しむロマーノさんの写真を公開しないことにした。ブラジル紙フォーリャ(F紙)もその写真を見たが、ロマーノさんの求めで公開しないことにした。
以下はF紙(以下、F)とロマーノさん(同R)のインタビュー
F これまでこの写真を公開しなかった理由は?
R 写真その他の証拠書類は、92年にやっと私の手に届いた。ドイツ当局はそれまで、そんな物はないと言っていた。私ともう一人の遺族、アンキー・スピッツァーは沈黙を選んだ。写真は衝撃が強すぎて、娘にも写真の事は金輪際話さないと言ったほどだった。
F どうして20年間隠してきたのですか
R 亡夫の家族と私の家族を守るため。今公開に踏み切った理由は、テロリストを「自由を求めて戦った戦士」と賞賛する声があるから。断じて違う。彼らは人を殺すために選手村に侵入したテロリストに過ぎない。
F あなたは写真の公開が、IOCがリオ五輪開会式で黙祷を行うかどうかの決定に影響すると思いますか
R トーマス・バッハ現IOC会長は私達にとって大きな、賞賛すべき一歩を記した。古代ギリシャの石をリオデジャネイロまで運び、犠牲者の名前を刻んだ上、選手村で式典を行うのだから。これまでだったら夢にも思わないこと。でも、開会式での黙祷実現はまだ諦めていない。これまでの五輪とは違った決定がなされる事を期待している。これまではいつも、「無理、無理、無理」の一点張りだったから。リオ市が黙祷を行うけれど、IOCの公式プログラムではないから、要求を重ねていくの。
F どうして黙祷がそれほどまでに重要なのですか
R 黙祷実施は、IOCがミュンヘン五輪でのテロ行為を非難するという強い意思の表れだから。現代にはびこるテロのひな型は、あの時に生まれた。パリ、ロンドン…、世界中で起きていることを見て。IOCは言い訳もせず、政治的配慮もせず、現実に起きたテロ行為を公式に非難するべきだわ。
F ブラジル人の観客にはなんと言いたいですか。
R ミュンヘン72の前は五輪はただすばらしいものだった。平和と友好があり、大会中は戦争も止まった。でも今日は、治安、保安にどれだけのお金がかかっているか。リオ五輪は博愛精神を取り戻す場であって欲しいわ。でも、それが実現するならば、その前に、夫の命を残忍な形で奪ったテロを非難することにも理解を示して欲しいの。
IOCはこれまで、黙祷を行わなかった理由を五輪と政治を結びつけないためとしてきたが、反イスラエルのアラブ諸国への配慮があると思われている。
遺族のスピッツァー氏は、「1976年に初めてIOCに黙祷の実施を求めた時、それをやればアラブ諸国21カ国の選手団が去ってしまうといわれたわ」と語る。
ロンドン五輪の2012年、支援団体「ミュンヘン11」は開会式での黙祷を求める署名12万通を提出したが、IOCは在英イスラエル大使館で委員長名の小さな式典を開催するに止まった。(13日付フォーリャ紙より)
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