塾には日本人も通うが、その中には、小学校のとき特別支援教室にいて、中学で高校進学のため普通教室に戻されたものの遅れや違和感があったり、不登校がちだった生徒もいるという。
「放課後の部活動の時間が有効活用できれば」と話す松下さん。同市の中学校では、校外のスポーツの習い事なども部活動として認めている。同センターでの補習やボランティア活動も認可されれば、学校では居心地の悪さを感じている生徒や学習が遅れがちな外国籍の生徒も選択の幅が広がる、と考えてる。
松下さんの公立校教師としての経験とエリザベスさんの追求する言葉の違いだけではない子供のためになる幼児教育、そして共通した「日本社会に居場所を作り、持っている力を発揮できるように」という方針によって、センターの活動は徐々に軌道に乗ってきた。ソル・ナッセンテの園児も口コミで少しずつ増えている。
「『出身校』にはならなくていい。ここを通り過ぎたり、少しでも関わった子はたくさんいる。その中からいつか大統領が出たら嬉しいね」。松下さんは笑顔で話す。
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行政との連携やサポートはどうなのか。取材中、近隣の市から、所在のわからない外国籍の子供の氏名リストが同校にファックスで送られてきていた。市内に住所がありながら公立校に在籍していない場合、近隣のブラジル学校等に在籍していないか確認をとっているようだ。
菊川市学校教育課に話を聞いた。外国人就学担当者によると、同市では、公立小中学校に通わない外国籍児童・生徒の所在を確認するため、家庭訪問を行っているとのこと。プライバシーの問題から氏名リストをファックスで流すことはしないが、直接ブラジル学校を訪れて聞き取り調査することもあるという。
未就学児には小学校の入学案内も送り、返事がない場合は家庭訪問。取材に訪れた日も、「日中は不在の場合が多いので、きょうも仕事帰りに家に寄ってみます」とのことだった。
また、2009年から昨年度まで、リーマンショック後の緊急対策「虹の架け橋教室」(文科省拠出)が行われていたが、菊川市では近隣の御前崎市、掛川市と合同で教室の維持ができるよう今年度から運営費を負担している。
「虹の架け橋教室」は、2008年末の経済危機でブラジル学校などに通えなくなった外国籍の子供たちや、不就学だった子供たちを公立校へ送り出すため、文科省が拠出し、国際移住機関が運営実施団体を募集した「定住外国人の子どもの就学支援事業」だ。
6か月を目途に学校習慣や日本語を学び、公立校への転入を目指す。言わば日本の公立校に入るための〃予備校〃だ。(つづく、秋山郁美通信員)
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