ホーム | 連載 | 2015年 | 静岡県菊川市=外国人児童の教育現場は今=人格形成と社会適応の現実 | 静岡県菊川市=外国人児童の教育現場は今=人格形成と社会適応の現実=(7)=大切な子供たちの心理ケア

静岡県菊川市=外国人児童の教育現場は今=人格形成と社会適応の現実=(7)=大切な子供たちの心理ケア

委託された日本インターネットスクール協会理事長の山下泰孝さん

委託された日本インターネットスクール協会理事長の山下泰孝さん

 「宿題の提出は厳しいですよ。忘れたら歩いて取りに行かせます」と山下さん。
 最初2年ほどは元々ブラジル学校に通っていた子供や不就学の子供がいたが、現在通っているのは来日して間もない子ばかり。特に焼津市は、震災後の東北の漁業への打撃の影響で水産関係の仕事が増えていることから、フィリピンからの日系人や呼び寄せが急増。一方ブラジル人は減る一方で、2011年から比人の数がブラジル人の数を上回っている。
 現在菊川教室では比人12人、ブラジル人6人、ペルー人2人、中国人1人の計21人が勉強している。
 クラスは日本語の習熟度と年齢によって分けられる。朝は9時半から読書と掃除で始まり、日本語、日本語活動、オリエンテーションなどの授業の他、音楽や母語での読書の時間もある。持参の昼食をはさんで授業は午後3時40分まで続く。
 使用するテキストは独自のもの。半年で基本的な日本語と最低でも小1レベルの漢字、算数・数学で使う漢字は学年レベルなどの目標を設定しカリキュラムを組んでいる。
 出身や来日の理由はさまざまだが、数カ月後にはそれぞれが別々の学校へ旅立っていく。この日は、間もなく中学3年への転入を控えた男の子がテストを受けていた。
 中学卒業資格がなければ高校受験できないため、中学3年のうちに転入したいが、出席日数や2学期の成績が必要なことを考えると今がタイムリミット。架け橋教室での準備は6カ月に満たないが、もう行くしかない。
 少年は、公立中に行くことが決まったときは「うれしい!」と喜んでいたが、最近は緊張と不安でナーバスになっているという。
 「みんなそうです。喜びの半面不安で落ち着かなくなってしまう。大人だって初めての場所は緊張するじゃないですか」と担任教師は言葉に力をこめる。
 ここでも「こどもの文化センター」同様、心のケアを大切にしており、講師は全員交流分析士の講座を受けている。
 山下理事長は「ここに来る日系ブラジル人は親が言葉に不自由な世代。フィリピンの子たちは愛情不足、それにしつけが十分でない。そういったことから発達障害や多動と判断されてしまうことがある」と説明する。
 近年来日する日系ブラジル人・ペルー人には、子供のころ日本に住んでいて、教育を同じ場所で受けていなかったケースが少なくない。母語で十分な教育を受けておらず、彼らが親になり、子供たちにその影響が出ているという。
 また、フィリピンの場合は、日本人男性との間に子供を持ったフィリピン人女性が多く、出産すると子供は国の親戚に預けて、自分は日本で働き、しばらく経ってから子供を呼び寄せる。子供にとってはフィリピン時代の両親の不在や、国籍・氏名共に日本なのにフィリピンにいるということが、人格形成期のアイデンティティを不安定にさせている可能性は十分にある。(つづく、秋山郁美通信員)