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『百年の水流』開発前線編 第一部=北パラナの白い雲=外山脩=(71)

 北パラナにはウジーナは10カ所ある。殆どの工場の経営が悪化している。アサイの場合、近くに一つ工場があり、5年前から人件費、借地料、土地代の支払いを滞らせ始め、4年前に会社更生法を申請、裁判所はそれを受理した。
 被害は、この地域一帯に及んだ。土地を貸したり売ったりしていた日系人が多い。非日系もいる。売り手の内の二人は、何とか払わせた。一人は工場主に拳銃をつきつけた。もう一人は脅し、すかし、泣き落した。
 その工場主だが、意外にも親日家だという。日系人に損害を与えながら、何が親日家だと言いたいが、そこが人間の面白いところ。矛盾しているようだが、事実、日系人との付き合いもあり、当人も日本語を読み書くという」

大型セレアイス農の時代へ

 ところで、この間、営農を続けてきた100家族余であるが──。
 先に記した様な悪環境の中で続けてきたということは、まことに驚きである。次々と襲ってくる危機と戦いつつ生き残った人、あるいは運に恵まれた人である。「そうなったら、そうなった時のことサ」と半ば開き直りながら続けて来た人もおる。そうなったら、とは例えば強盗に襲われたら、という意味である。
 この人々はカフェー、綿、ウーバが駄目になった後、代わりの作物を多数、試みた。結局、セレアイス、野菜・果物に落ち着いた。
 セレアイスは大豆、ミーリョ、小麦である。ただし労働法問題があるため、労務者をできるだけ使わず、営農する必要があった。そのためには機械化し、規模を大型化しなければならない。
 前出の大内照朗さんの場合は、営農規模250~300アルケーレスというから大型化に成功したケースである。
 「大豆は、ここ数年、好価格が続いていて悪くない。遺伝子組換え、プランチオ・ジレット(不耕起栽培)は革命的」
と表情は明るい。遺伝子組換えは害虫対策に効果があり、プランチオ・ジレットは、土地に有機質肥料を与え、地力の回復に役立っているという。
 一方、山川精二さんは「私は小農。小農は今後、大農に吸収されて行くでしょう」と覚悟の面持ちだ。
 実は、全体としてみれば、現在のアサイの日系人の所有地面積と営農規模は、昔より大きくなっている──という説もある。離農した人が、その時、同じ日系人に土地を売り、買った方が営農規模を大型化させた。さらにアサイの周辺地域にまで農場を広めている人も居る。そういうことの様だ。
 具体的な数字は入手できなかったが、日系農業者の数は減っているが、大型のセレアイス農時代への波に乗っている人もかなり居る──ということになる。
 なお、野菜・果物は、労務者を使わず家族で出来る範囲で営農するという方法に限られてきている。
 農業以外の日系住民の職業は種々雑多である。

消えつつある日本色

 トゥレス・バーラス移住地開設から83年、アサイの日本色は消えつつある。日本色といっても種々あるが、例えば人種構成は──
 先に記した様に、日本人・日系人の家族数は激減してしまっているが、全住民の中に占める人口比率も、大きく低下している。
 この章の始めの方で記した様に、移住地の草創期、住民は総て日本人であった。非日系のカマラーダは居たが、ごく僅かであった。が、今では、街を歩いていても見かける日本人・日系人が極めて少ない。筆者は、偶々、フェイラの中に紛れ込んでしまったことがあるが、前後左右を見回しても、一人も居なかった。
 ただ、この比率の縮小傾向が始まったのは、近年のことではない。実は半世紀以上も昔からそうなのである。