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想い出を暖めて「オートバイの旅」=クリチーバ 田口さくお

 息子とオートバイの旅に出た。行先はクリチーバ市から約2百キロ、グァラキサーバという港町。
息子の友達夫婦との4人旅、グラショウザ街道を降り、アントニーナ市から砂利道を走ること約1時間。砂利道の本道から約10キロのところに『サルト・モラト』という滝がある。
 ここは『グルッポ・ボチカリオ』という(化粧品の会社)財団が管理していて、滝に行く山道や自然散歩道等は良く整備されている。ただ、滝への道はかなりきつい。滝は落差130メートル余、素晴らしい滝である。その姿、岩石に囲まれてた川の流れ、水のせせらぎ―大自然がそこにあった。
 グァラキサーバ市(人口8000人位)は、小さい漁港の街である。

グァラキサーバの湾の景色

グァラキサーバの湾の景色 (Foto By David Veiga (Own work) [CC BY-SA 4.0 (http://creativecommons.org/licenses/by-sa/4.0)], via Wikimedia Commons)

 港は湾になっていて波静か、街並みも港に沿ってあるだけの田舎。本当に想い出に残る旅であった。
 ただ、滝を見学した後、穴に入ったのかオートバイが転倒、私は軽い足首の捻挫をしてしまった。幸い捻挫だけで、痛みはあったが小難で済んだ。これも先祖のお蔭かと感謝している。何時も大難は小難にと、小難は無難にと祈願しているのが聞き届けられたのだと思っている。
 そういえば、私がブラジルに移り住んで間もなくの頃。日本に一時帰国した時、田舎の実家の近くの田圃にオートバイで落ちたことを思い出した。この時も怪我はなく、植えたばかりの田圃を少し荒らしただけで済んだ。田圃の持ち主は兄の知り合いで、許してくれたのだった。
 人には逃れられない運命というものがある。そんな時、やはりそれを良い方向にしてくれるのが先祖霊であり、守護霊だと私は思う。東京大学の緊急治療センターの部長医師・矢作直樹氏の本に、『人間は死なない』という一節がある。その中で『体は死んでも魂は残る。そして自由自在に空間を移動している』と言っている。私もそれを信じたい。そうすれば、今生きている事が楽しくなるからだ。
 生きている間に沢山の楽しい想い出を作り、意識としてあの世(?)とやらに持って行き、縁のある『黄泉の国』の人達(父母等)と会話できたらと思うのである。ただ、いつも懺悔の気持ちを忘れないようにとも思っている。
 本当に自然への旅は楽しい。昔の詩にもある。『人はいさ心も知らず古里は花ぞ昔の香ににほひけるー紀貫之』私も詠んでみる。『静かなる森の岩肌白き滝飛沫と虹に小鳥囀る』『喜寿の山過ぎて旅するオートバイ訪ねし湾は波静かなり』。