「あっちへ行け。そこを閉めろ」―。ゴミを捨てようとしてコンテナの蓋を開けたら、中からこんな声が聞こえてきたとしたら、どんなに驚く事だろう。
だが、サンパウロ州内陸部のソロカバ市では、少なくとも3年前から、バスターミナスのそばにあるゴミのコンテナに住み着き、気心がしれた人以外とは言葉も交わさないという男性がいる。
「初めて見た時は驚いたわ。ゴミを捨てようと思ったら、コンテナの中で何か動いているんだもの。人だと分かるまで時間がかかり、その晩はその様子が目に焼きついて眠れなかったわ」と言うのは、バスターミナルのそばに住むアドリアナ・タヴァノさんだ。
「見知らぬ奴とは話さない」という男性はエメルソン・ダ・シウヴァ・ライムンドという名で、サンパウロ市の市場で働いていたが、3年前にソロカバ市に移ってきて以来、常にゴミの中に住んでいる。
彼と言葉を交わせる数少ない人物の一人は、ガソリンスタンドの主任のヴァウデマル・フェリッペ・ローザ・ジュニオル氏だ。同氏によると、エメルソン氏がゴミの中で暮らしている理由は誰も知らないが、薬物や酒には手を出していない。
ヴァウデマル氏がエメルソン氏を最初に見たのは、あるビルの横に据えられていたゴミ箱の中で、その後は2区画先の道のゴミ箱に移った後、バスターミナルのそばのコンテナ二つを使うようになったという。
近所の人の中には、エメルソン氏がコンテナに捨てられたゴミを食べているのを見た人もおり、食べ物を提供してもいつも「要らない」と言うという。3年もこんな生活をしているため、近所の人も彼の存在になれ、ゴミは道路に置くなどの配慮をしているが、ゴミのトラックがコンテナごと運んで行きそうになった事もあるという。
近所の人はエメルソン氏がコンテナから出て普通の生活をする事を望んでいるが、社会福祉の専門家は「あそこを住処にしようと考えたのは彼だから、その意思は尊重されるべき。周りの人が気に入っていないのは分かるけど、私達には強制力はないわ。昔みたいに路上から排除する事は罪に当たるのよ」という。
エメルソン氏は精神障害者として登録されており、福祉関係者がその様子を見守っているが、本人との会話は難しく、家族その他の情報は未だに得ていないという。
ソロカバ市の路上生活者は約300人とされているが、経済不況のために今後はその数が増えると予想する人も多い。
同市の路上生活者の66%はクラッキを始めとする麻薬類の常用者で、精神傷害や精神的な問題で家を離れた人も11%いる。路上生活者の80%は市外から移り住んできた人で、9・2%が女性だという。
15年に同市の路上生活者のための施設を訪れた人は8500人、市の職員らが連れてきた人は3500人。これらの人がシャワーを浴びた回数は1万1200回、提供した食事(朝食と昼食)は5万食に上る。(16日付G1サイトより)
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