日本の津軽三味線デュオ「吉田兄弟」の初来伯公演がサンパウロ市のセルジオ・カルドーゾ劇場で20、21日に行われた。同デュオは、民謡以外の幅広い楽曲を演奏することで知られ、日本国内に留まらず広く海外でも活躍している。計3公演で集まった観客2千人以上は、高速の撥捌きに思わず息を呑んだ。当地の愛好家も憧れの目線で見守る中、アンコール含む10曲を演奏、最後は〃三味線サンバ〃で締めくくった。「TAIKO ART」が主催。ブラジル文化省が後援。
北海道登別市の出身の兄・良一郎さんと弟・健一さんは、共に5歳で三味線を始め、数々の大会で優勝した後、99年に「吉田兄弟」としてアルバム『いぶき』でデビュー。以来、日本の有名音楽賞を受賞し、楽曲がテレビCMに起用される等、邦楽器の分野に留まらない活躍をしている。海外でも知名度が高く、特に米国では数年に一度コンサートツアーを行うほどの人気だ。
観客で一杯の会場に二人はトレードマークの袴姿で登場。上が白、下が赤のいでたちが、スポットライトによく映えた。日本伝統の津軽三味線を使うが、奏でる音楽はロック調やチェロ曲「鳥の歌」をアレンジしたものなど一様ではない。テンポが速いことが特徴の津軽三味線。その代表曲「津軽じょんがら節」では手の動きが分からないほどの撥捌きに、歓声というより、どよめきが上がった。
前座には和太鼓グループ「生」とサンパウロ市のサンバグループ「メニーノス・ド・モルンビー」も出演。最後は総出演で、バテリア(打楽器隊)とダンス、和太鼓と三味線のコラボ〃三味線サンバ〃となり、会場総立ちの歓声が送られた。
これまでロックバンド、ダンスグループ、アイドル等、数々の競演をしていた中でも、地鳴りのようなバテリアの音は新鮮だったようで、兄弟は負けじと力強い演奏を見せた。真剣な表情が緩み、徐々に笑顔になりながら計10曲の舞台は幕切れとなった。
公演前の記者会見で本紙が、「当地には大勢の三味線愛好者がいる。その前で演奏する心境はどうか」と質問すると、「以前からブラジルで奏者がいることは知っていた。中々訪れられる場所ではないので、民謡としてだけではなく、自分たち自身の〃音〃を伝えたい」と語っていた。
サンパウロ州タウバテで和楽器教室を開く、海藤司さんは「あれだけ早く弾くと音色が落ちるものだけど、全く褪せない。レコードでは伝わりきらない魅力があった」と絶賛した。
また海藤さんの甥で、リベルダーデで50人の生徒を相手に三味線教室を開く赤堀雄三さんは、十代の時に吉田兄弟の楽曲に影響を受け、現代的な楽曲の演奏を開始。14年にはCDを発売する等、全伯を回るプロとしても活躍している。「教え子もたくさん来ていて、皆喜んでいた。このライブがきっかけで三味線に興味を持つ人がもっと増えてくれれば嬉しい」と語った。
また赤堀さんは昨年から友人を介して兄弟と親交があり、今年から兄・良一郎さんに弟子入りしたという。「生徒を教える上でのサポートを受けることになった」とし、「目標は、自分の活動よりも、ブラジルで三味線の知名度を上げること」と言う赤堀さんにとって強力な味方が付いた。
会場には非日系も多く来場。ウィリアン・ソウザさん(28)さんは、10年来のファンで、「まさか生で見られるとは思わなかった」と興奮気味で話した。