「今日、日伯交流の新しいヒーローが誕生した」―中前隆博在聖総領事は挨拶で、そうエドアルドを評した。ブラジル日本アマチュア歌謡連盟(NAK、北川好美会長)が6日、プレ五輪イベント『日伯交流・歌と踊りの祭典』を文協ビル大講堂で開催した。1500人以上が入場、終始立見が出るほど満席の中、歌謡と舞踊が次々に披露された。昨年10月に日本デビューを飾り、NHK歌謡コンサートにも出演した非日系の演歌歌手エドアルドもデビュー後初帰国、凱旋出演で美声を響かせた。藤瀬圭子プロダクションの共催。
第1部では、日本舞踊・花柳流金竜会、京藤間流、池芝流、花柳流竜千多会らが風流な踊りを見せた。道田エジソンさんら当地歌手が出演、「夜明けのブルース」など11曲を熱唱。来伯した里見流の里見華真さんらが日本舞踊「名槍日本号」で武士の豪胆さを表現し、喝采を浴びた。
第2部は再びブラジル側の日本舞踊でスタート。軽快な「千恵っ子よされ」で始まり、「恋唄綴り」など12曲を歌い、会場は興奮に包まれた。歌手の新内枝幸太夫さんの心地よい声とともに里見流が「古城」「関東春雨傘」などを演じた。
午後3時過ぎから「凱旋コンサート」が開始。「皆様、ただいま!」と言いながらエドアルドが黒のスーツ姿で登場すると、「がんばれ!」「紅白出ろよ」というエールと共に大歓声が上がった。感激に目を潤ませながら、「夢慕情」で故郷を思う気持ちを歌い上げると、かつてのムレッキ(若者)が立派に成長した姿を見届けた観客は盛大な拍手を送った。
美空ひばりの「愛燦燦」を得意の高音で歌い上げ、舞台を降りて、日本の師あらい玉英の「五里霧中」などを歌いながら観客と握手して回ると、熱狂して抱きつきキスをする人が続出した。北島三郎の「まつり」ではチョコ入りのボールを客席に投げ、会場は大いに沸いた。
「岸壁の母」に続き、デビュー曲「母きずな」で、生後すぐ日系家族に預けられた彼の人生が織り込まれた歌詞を、涙をこらえながら絶唱した。最後は名曲「歌はわたしの人生」を歌って退出したが、アンコールの声が上がり再度「母きずな」を熱唱、会場には歓声と拍手が充満した。
新内さんが新曲「今夜はマンボ」などを堂々たる歌声で披露。最後はブラジル健康表現体操と鳥取しゃんしゃん傘踊りグループの会員ら90人が加わり、来週に控えた東日本大震災5周年を想いながら復興支援曲「花は咲く」を全員で合唱し、閉幕となった。
シオタ・チサさん(80、二世)は「今日の踊りは特に素晴らしかった」と振り返り、孫の桑原マユミさん(17、四世)は「私はエドアルドさんに歌を習っていた。相変わらず良い声」と満足した様子。
中村ナタリーナさん(70、二世)は15年前にブラジル紅白歌合戦で司会するエドアルドを見た。「日本語がとても上手になった。昔はすごく太っていたのに、あんなに痩せて。ぜひ紅白に出場してほしい」と期待を膨らませた。
入場料代わりの1キロの保存食は1500キロ以上集まり、さくらホーム・サントス厚生ホームに寄付された。
□関連コラム「大耳小耳」□
『日伯交流・歌と踊りの祭典』のため来伯した里見流家元・里見香華さんは、1948年から日本舞踊を通して福祉施設へ奉仕活動を始めた。以降、約70年間続けており、現在でも「福祉施設での慰問が私の使命」と言う。今回もサントス厚生ホームでの慰問公演をスケジュールに入れて来伯。この志の高さが、芸の完成度を支える鍵なのだろう。
◎
エドアルドの特徴は社交性と日本語能力の高さだ。「人前で初めて歌ったこの文協の舞台で、こうして凱旋コンサートができるなんて想像もできませんでした」としみじみ語ると、会場からは惜しみない拍手が送られた。リオ五輪の今年、歌手だけでなく五輪会場の現場リポーター役など、演歌以外の才能も花開くかも。注目を浴びれば、マルシア以来のブラジル出身者の紅白出場も夢ではなくなるかも。