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「ルーラ強制聴取」を境にブラジルは変わるか?

3月4日ジョルナル・ダ・クルツーラの様子(テレビ画面)

3月4日ジョルナル・ダ・クルツーラの様子(テレビ画面)

 先週金曜は朝から新聞社上空をヘリが飛ぶ音が物々しく響いた。サンパウロ市セントロの労働者党全国本部の上空に待機したものだった。連警がルーラの自宅に押し寄せたニュースを聞きながら、思わずマルシンニャ(サンバ行進曲)の「O japonês da Federal(連邦警察のジャポネース)」が頭に浮かんだ。《気持ちよく寝てたのに、夜が明ける6時頃、大きな音を聞いた。(中略)『セニョールは間違ってる。俺はタダの労働者だ。ロビイスタでも、上院議員でも、下院議員でもないゾ!』》▼3月4日「ルーラ強制聴取の日」はブラジル政治史に残る日付になりそうだ。この日以前と以降では、政治だけでなく経済も変わる節目かもしれない。「連邦警察による誘拐だ」とPT下議がテレビで怒りをぶちまけ、ルーラ本人も「囚人扱いだ」、PT側は「民主主義への暴力」との認識らしい▼同日晩のジョルナル・ダ・クルトゥーラに出たPT党幹部パウロ・フラテスキ氏(元サンパウロ州議)のコメントには怒気が漲っていた。「ルーラに手を出すなら、今日から我々は変わる。いつも市民抗争を避けてきた。これからはデモクラシアを守るためにミリタンチ(活動家)は街頭に出る」と宣言し、横にいた記者から「それは平和的にか?」と聞かれ、思い出したように「平和的だ」と補足していたのを聞き、ゾッとした。まるで王様を護衛する親衛隊だ▼その当日、ルーラ自宅前、強制聴取されたコンゴーニャス空港内で反PT勢力とPT親衛隊が激突して流血騒ぎが起きていた。このままでは済まないだろう▼株式市場が08年以来の急上昇を記録し、レアルも価を上げた動きを同ニュースは「市場が政権交代を求めている」と報じると、フラテスキ氏は「市場とは誰だ? 投機家、相場師、投資家、銀行のことか。奴らはブラジルの国の富を奪いたいだけ。メルカードなんて吐き気がする」と切り捨てた。その言葉にPTの本質が透けて見えた▼ルーラは強制聴取後にPT本部へ行って活動家を前に、「司法やマスコミらエリート」を攻撃する得意の階級闘争演説をし、「毒蛇を殺すなら尻尾を切ってもだめだ。頭をやらなきゃ」と締めくくった。自分を毒蛇に譬え、今回の連警の仕打ちは単なる尻尾への攻撃でしかないと言いたいようだ。しかも「2018年には大統領選に出る」とぶち上げ、強制聴取を〃政治弾圧〃ととらえ、選挙活動に利用する強かさをみせた▼複数の政治評論家の読みでは、デウシジオ・アマラル上議の司法取引が成立するかどうかに、現政権の存続の鍵が握られている。ジウマとルーラが直接関係する犯罪行為が証言されているからだ。この動きの中で、リオ五輪時の大統領が誰か、分からなくなってきた▼正副大統領をシャッパ(連記名簿)ごと無効化する裁判が選挙高等裁判所(TSE)で進んでおり、賄賂資金が選挙運動に流れ込んだ証拠が次々に出ている▼シャッパ無効判決が出た場合、暫定大統領は下院議長だ。ところがクーニャも先週、ラヴァ・ジャット作戦の被告に。最高裁によって彼の議席剥奪が審議されると同時に、倫理委員会でも同様の審議が進んでいる。その次は最高裁長官…▼リオ五輪開幕まで5カ月を切った。思えば昨年も3月15日に大規模抗議行動が起き、インピーチメントへの動きが始まった。ブラジルにとって国が動き出す3月はまさに「急変の時」だ。(深)