ホーム | 文芸 | 連載小説 | 「ある日曜日」(Um Dia de Domingo)=エマヌエル賛徒(Emanuel Santo) | 「ある日曜日」(Um Dia de Domingo)=エマヌエル賛徒(Emanuel Santo)=(23)

「ある日曜日」(Um Dia de Domingo)=エマヌエル賛徒(Emanuel Santo)=(23)

「忘れていました。大ニュースです!どうも、彼女ができたみたいです」
「えっ、嘘だろー!」
「その彼女というのが、ブラジルと日本の混血のすごくかわいい子です。まだ10代だと思います」
「日本の引きこもり男が突然ラティーノに変身か?そいつ、どうやってブラジルのガロータ(若い娘)を捕まえたのかな」
「彼は、捕まえたのではなくて、捕まったのです。先週の月曜日だったと思いますが、職場の近くのコンビニの横にある広場で、ちょうど目撃しました・・・フリーター君がいつもどおりヘッドフォンを聴きながら弁当を食べていると、その広場でラジカセの音楽を聴いていたその子が、何を聴いているのとか言って、彼に声をかけたんです」
「さすがはブラジレイラ(ブラジルの女)、積極的だね」
「フリーター君は、最初は戸惑っていましたが、女の子が彼のヘッドフォンを付けて踊り出したのを見て、彼も彼女の動きに合わせて踊り始めました。僕も、たまたまその場にいた職場の人も、びっくりしましたよ。フリーター君は、いよいよ頭がおかしくなったのかと思いました」
「ガロータが日本男児のハートに火をつけたんだ」
「フリーター君とガロータは、二人ともJポップとかラップが好きで、すっかり意気投合したみたいです。この頃は、昼休みや午後の休憩時間に広場で逢って、ラジカセの音楽に合わせて、ヒップホップとかストリート系のダンスを踊っています。二人とも、周りに見物人が来るくらい、カッコよく踊れます。実は、この間コンビニの前からジュリオさんに電話した時も、仲よく踊っていました」
「そう言えば、なにか賑やかな音楽が聞こえたよ。フリーター君も、やっと人生で勝ちだしたじゃないか」
「いやー、でも、フリーター君がダンスが得意だなんて驚きましたよ。彼に聞いたら、毎週日曜日は東京に出てきて、どこかの公園で仲間たちと踊っているらしいです」
「リカルドのサッカーにも、フリーター君のダンスにも驚いたよ。人は見かけによらないね。人間、誰にもなにか取り柄があるんだ・・・」
 自分の話がオヤジ臭くてクドクなっていくのを感じた。酔いがまわってきたみたいだ。完全に酔っぱらう前に、リカルドに話すべきことを話そうと思った。
「ところで、君から頼まれた件だけど・・・」

【第12話】

 私は、サンパウロのセルジオ金城から得た情報を、順を追ってリカルドに伝えた。女将が出す料理を美味しそうに食べ続ける彼は、何か話を聞くたびに、驚いたり、納得できないような表情を繰り返した。
「つまり、サンパウロからの調査結果を要約すると、こうだ。君の奥さん、つまりアナが持っていたペドロの出生証明書だけど、そこに書かれた母親カロリーナとは、アナの双子の妹だ。カロリーナは、以前会社の研修で日本に来た時に妊娠して、ブラジルに帰ってからペドロを出産し、今は、君がアナとお見合いしたマンションに住んでいる。アナが自分の母親だと紹介した年配の女は、実は、カロリーナのところで働いている女中だ。アナは、来日前に、すでに日本を知っていたカロリーナから生活上のアドバイスをもらうついでに、カロリーナの子供の父親探しを頼まれた・・・、というわけだ」
 私の話が一段落すると、リカルドはため息をつきながら言った。