5年前の3月11日朝7時、いつものようにグローボ局ニュースをつけると、大津波の映像が流され「まるでSF映画だな」と客観的に見入っていたら、日本だった。驚いてネットで確認し衝撃を受けた。さらに翌日、グローボは原発爆発の映像を放送し、炉心溶解に言及していた。それを見て頭の中は大混乱になった。日本からの報道では「メルトダウンではない」という内容ばかりだったからだ▼でもブラジルマスコミはあの爆発映像と共に「フクシマは炉心溶解か」と報じた。一瞬にして世界中を同じ情報が言葉を越えて駆け巡る現在、世界が注目する大事件に関し、あの時ほど日伯の報道内容が食い違ったことはない。ブラジル在住日本人としては、NHKでは「炉心溶解ではない」、グローボは「炉心溶解か」と真っ向から反対の内容が報じられ、心理的な股裂き状態だった▼でも冷静に考えれば、あの爆発映像がすべてを物語っていた。今回に関しては、欧米の方が客観的な判断をしていた。逆に、日本のメディアには情報統制的な部分、言い方は悪いが、〃大本営発表〃の残滓があるのだと強いショックを受けた▼当たり前だが、震災当時から特派員は欧米の炉心溶解報道に接しており、日本メディアは知っていた。でも当時、炉心溶解に言及していたのは、原発問題の専門家・広瀬隆の解説記事だけだったので、了承を得て1頁掲載した▼大震災の2カ月後に訪日し、静岡の実家でその話をした。兄に「えっ、原発が爆発した? テレビで見たことないぞ」と言われて、さらに驚いた。「ブラジルでは2日目からニュースで映像が流されていたよ」というと、兄は驚き「日本では流さなかったんだな。でも、あの時のショックの酷さを考えれば、放送しない判断が正解だった」と擁護した。外国に住んでいると分からなくなる日本の日本人独自の〃心理的な壁〃を感じた▼この2月25日に共同通信から配信された次のニュースを読んで、再び驚いた。《東京電力は24日、福島第1原発事故当初の原子炉の状況をめぐり、極めて深刻な事態の「炉心溶融(メルトダウン)」ではなく、前段階の「炉心損傷」と説明し続けたことが誤りだったと発表した(中略)。事故から5年、情報公開の在り方があらためて問われそうだ》。確かにこの種の情報の扱いは難しいが、5年間も誤魔化し続けていたのだと呆れた▼同記事によれば、原子力災害対策マニュアルには炉心損傷割合が5%を超えれば「炉心溶融」と判定と明記されていたが、《3号機では計測機器が復帰した3月14日午前5時3分の時点で損傷割合が30%、1号機も午前7時18分時点で55%と推定され、ともに炉心溶融の状態だったが、国への報告や報道機関への説明では炉心損傷としていた》とあり、新潟県の泉田裕彦知事の「メルトダウンを隠蔽した背景を明らかにしてほしい」との言葉で締められていた▼正確な情報がなければ、被災地住民は判断ができない。原発は危険だからこそ、よけいに正しい情報を保障する必要がある。何かあったときに正確な情報が出せない事態がある―という状態自体が大問題だ。公にできない事態が発生する可能性があるものは作るべきではない。東日本大震災から学ぶべきことは何だろう。合掌。(深)