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「ある日曜日」(Um Dia de Domingo)=エマヌエル賛徒(Emanuel Santo)=(28)

 いきなりエバの本名が出てきた瞬間、「やった!」と思った。エバとカロリーナは同一人物らしい。
 ケチな外人と思われたら話が聞けないので、仕方なくOKして、出てきたシャンペンのボトルを見て驚いた。「ピンドン」(ドンペリニョンのロゼ)だった。
「サウージ(乾杯)!」
 まず、三人で乾杯してから、ようやく本題に入れた。

【第14話】

 エレーナの話では、カロリーナは、日系人の友達に誘われて、埼玉にある系列のキャバクラに面接に行ったが、大衆店より高級店がふさわしい女というオーナーの判断で、新宿の店に回されたらしい。
 カロリーナに初めて会った時は、びっくりしましたよ。高級店とか言っても、しょせんうちは、歌舞伎町にあるキャバクラに毛が生えたような店ですが、彼女は容姿だけじゃなくて頭も良くて、きちんとメイクして素敵なドレスを着れば、銀座や赤坂のクラブでも働ける子でした。最初の頃は週末だけ出勤してましたが、多くのお客さんが、われ先にと彼女を指名しました。あまりにもてる新人さんが現れたんで、前からいる女の子は、いい顔しませんでしたけど」
「カロリーナって、他の子とそんなに違ったの」
「南米に長くいたジュリオさんならご存じでしょうが、あちらでは、どこに住んで、何してるかで、人間が判断されちゃうでしょ。彼女は、いい家庭で育って、大学を出て教養があるし、英語もきちんと話せるし、おまけに美人で・・・。ワタシを含めて、南米から来た子の多くは、国ではやっと生活していたというか、要するに、育ちも頭もよくないんです。うちは、新宿のいい会社に勤めているお客さんも多いんですが、エリートさんとか、インテリさんなんかは、カロリーナが好きでしたね。なにせ、手ごろな料金で、銀座・赤坂クラスのホステスと遊べちゃうんですから」
「カロリーナは、クラブで働きだした理由について、何か言ってた?」
「彼女、いい家庭で育ちましたが、会社の研修で日本に来る前に、両親が交通事故で死んだらしいです。裁判の費用とか、親が残したマンションのローンとか、お金のやりくりに困ってました。南米では、とんでもない金持ちもいますが、中流くらいの人間は、みんな自分の生活レベルを落とさないように必死ですからね。裁判は示談が成立したけど、マンションのローンの方は、ブラジルの会社でいくら働いても返せないって言ってました」
「なるほど、手っとり早く金を稼ぎたい理由があったんだ」
「彼女、会社の研修で地方に行った時、偶然、会社の元上司と会ったらしくて、その人はある下請け工場で働いていて、ブラジルにいる時よりずっと稼いでたそうです。私の出身国のペルーもそうですけど、今では、大学の先生とか、医者や弁護士まで出稼ぎに来てますからね。カロリーナは、会社を辞めてからこの店のレギュラーメンバーになって、埼玉から、西武新宿線沿いにある安アパートに引っ越しました」
 エレーナは、カロリーナのことだけなく、自分の身の上話も、それ以上に聞かせてくれた。ペルー人の旦那が愛人と逃げてしまい、彼女は年老いた両親に二人の子供を託して出稼ぎに来ているらしい。
 男性優位社会というか、女ったらしで、いい加減な男も多い南米では、よくある話だ。女が世帯主になって、かつての恋人や夫との間にできた子供を、親や兄弟の助けを借りながら育てている家庭が多い。