ブラジルは現在、ルーラ前大統領(労働者党・PT)の官房長官就任という、想定をはるかに超えた「逮捕逃れ」の方法に呆れた国民らが、これまでにないほどの反政府的な怒りの中にある。
だが、ブラジル音楽界の重鎮の中には、この動きに反旗を翻す動きが見られている。
調査機関ダッタフォーリャが3月17、18日に行った最新のアンケートでも、「ルーラ氏の官房長官就任は公職特権欲しさの逮捕逃れだと思うか?」に「そう思う」と答えた人が、「政界強化も含む」という答えも含めれば75%に及んだ。この流れの中、それを推進したひとりでもあるジウマ大統領への風当たりも強くなっている。
だが、ブラジルの音楽界は必ずしもそうではない。とりわけ、「業界の重鎮」的存在にまだ、ジウマ氏やルーラ氏を強く擁護する動きが見られるのだ。
カエターノ・ヴェローゾは17日、グローボ局の番組「アトラス・オラス」の中で、現在、巻き起こっている反政府、反PTの動きに関し、「現在の動きは1964年の軍によるクーデターを思わせる。落ち着いて考えた方がいい」と語った。
また、エルザ・ソアレスは18日、リオデジャネイロ市でのコンサート中に、「民主主義のために戦いましょう」「テロは起こさせない」と呼びかけ、ジウマ大統領の罷免を止めることを訴えた。
そして20日、シコ・ブアルキは19日にミナス・ジェライス州の劇場で開催された、自身の楽曲を使ったミュージカル「シコ・ブアルキの曲すべてで90分」の演出に激怒し、「以後、楽曲の使用を認めない」と発言した。それは、この劇中で、出演俳優のひとりが「今宵は、まさに夜8時のドラマにぴったりのタイミングだ。泥棒元大統領が逮捕、もしくは、泥棒現大統領が罷免を受けそうなこの夜に」と語ったことが、かねてから両大統領と親しい(実妹はジウマ政権の元教育相)のシコの逆鱗に触れたからだという。
カエターノ、エルザ、シコはいずれも、60年代後半に当時の軍事政権と戦い、国外に逃亡した経験を持っている。エルザの場合は、当時サッカー界のスーパースターだったガリンシャと共にイタリアに逃げている。
彼らに中では今も、この時代に学生活動家や組合活動家だった人たちを中心として結成されたPTは「同士」との意識が強いのだ。
だが、PTなどの連立与党が関与する汚職疑惑「ラヴァ・ジャット作戦」による損害はブラジルの経済成長をマイナスに転じさせ、ルーラ氏の逮捕逃れでの入閣も、ジウマ大統領やPT党首の盗聴記録の中で証拠となるの発言として残ってしまった。
ヴェージャ誌のジャーナリストのレイナルド・アゼヴェド氏は、「もしPTが野党で大統領が他党の人間だったら、『罷免を求めるのはテロ行為だからやめましょう』なんて言っただろうか。そんなわけないだろう」と語り、シコらの行為を強く批判した。
ブラジルの芸能界はPT一色ではなく、反対派ももちろんいるのだが、その代表のひとり、映画監督のジョゼ・パジーリャはヴェージャ誌に「イデオロギーに魅了されてPT支持を表明し、イベントに出てルーラと抱き合って、ジウマの選挙の応援をしたりした人たちには、意見を変えるのは難しいんだろう。でも、目覚めなければならないときだよ」と語っている。(21日付Veja誌サイトより)
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