サンパウロ 梅崎 嘉明
ジカ熱媒介の蚊の撲滅に医学薬学新プロジェクト
吸血の蚊は雌のみと発見し雌雄の行動を遺伝子に組む
遺伝子に組みかえし雄を培養し交尾で生れし幼虫は死すとか
ブラジルのジュアレス市で実験し画期的なる効果を得しと
新しく開発されし誘虫の「ブラックホール」は家庭に必須
やがてくるオリンピックの観戦に「ブラックホール」を携帯すべし
バウルー 酒井 祥造
降りし量報じぬニュースに不満持つ水害続くエルニーニョの雨
天災にあらず大都市の水害は自然を無視の人々の罪
百ミリに足らぬ雨量に人死ぬと水禍報ずる大都市圏は
いつの日か三百ミリの雨降るは歴史を知れば遠からず来る
エルニーニョの雨止みたるか空澄みて立秋近き日々を草刈る
「評」大都市中心主義に陥った人類を見詰める目の確かさ、立秋近き『日々を草刈る』氏であればこそ言えるのだ。
サンパウロ 武地 志津
春場所のご当地力士豪栄道に盛んな手拍子熱き声援
琴勇輝初金星に行司より勝ち名のり受く歓喜の涙に
窮まりて泪の弟子に親方の眼うっすら潤むを見たり
白鵬のまたも黙目押し土俵下に隠岐の海関突き落としたり
今場所に気迫漲る稀勢の里琴奨菊に続けと祈る
「評」この国でも多くのファンが見守る中での春場所。日本の力士がいよいよと期待の内にも、日本古来の禮儀を欠く様に見える横綱・白鵬に批判の眼も。ここまで書いていたところで、千秋楽、白鵬三十六回目の優勝、北の富士親方が礼儀云々、優勝メッセージで、初めて声をつまらせた白鵬を見た。これが本音かも、そろそろ潮時かも。
サンパウロ 相部 聖花
一鉢にカトレア八輪開きたり庭の華やぎ独り眺むる
緑濃きコーヒーの葉の合間にて色付き始む実は輝きて
秋立ちてシンピジウムの花芽伸ぶ平素は目立たぬ花の営み
月下美人返り咲きとも言うべきか今期二度目の蕾ふくらむ
韓国産そうめんの名は「友白髪」「共白髪」ならば許されもする
「評」花の営みをいくらか自身に引き寄せて見つめ様とする気概が窺える一連。三、四首に特に心魅かれる。
カンベ 湯山 洋
自転車が可哀想です重すぎて肥満の人の漕ぎ行く小道
オートバイ車を縫って走り去る一つしかない命を乗せて
若者が新車を飛ばす田舎道避ける暇なく埃を被る
カミニョンが坂道登る音聞く夜我四十代省る時
真夜中に線路軋ませ汽車は行く御苦労さんと寝床で呟く
「評」言葉のつなぎが旨い、自ずとリズムの生れる音感がある。軽く流れないのは対象に向き合う心に真摯な現れであろう。
サンパウロ 梅崎 嘉明
わが著書をほしきと言われ送りしが美しき文字の礼状とどく
礼状に野口敬子と名のありて評論家なりといまにして知る
移住者の著書に関心のある方と記者のひとりが教えてくれし
著書贈り文通ありしが間なくして急逝せしを新聞で知る
評論家野口敬子の記事ありて著名な方とあらためて知る
【私の作品を送ってほしいと頼まれ、誰とも知らず送ったのでしたが、日本の評論家の一人と知り、感謝の手紙を出したのがきっかけで二、三度文通しましたが、急に亡くなったのを知り、哀悼の意味で五首まとめてみました】
サンパウロ 遠藤 勇
夏去りて風さわやかな秋は来ぬ本に親しみもの思う秋
鮮やかな赤のリンゴや梨ぶどう秋の実りは市に溢れる
北向きの窓に射しこむ秋の陽のその日溜まりは私の居場所
方円のものに従う水ながら雨も怒れば人に打ち勝つ
古希喜の寿傘寿米寿と辿り来て卒寿の我に知らぬ事多し
「評」いよいよ爽やかな秋に入りすべての実りが溢れる頃となり、また三首目の落書きは心にとまる作。従順ながらもと、社会批判も更に自己を省みることも忘れない。
バウルー 小坂 正光
リオ五輪ドーピング(薬物)用いる各国の選手多数の発覚を見る
ロシア選手のドーピング使用数多く五輪の参加は失格となる
ロシア選手の薬物使用は問題化しプーチン大統領は面目失う
日本選手不正を好まぬ精神の武士道守る其のいさぎ良さ
リオ五輪日本選手の清らかさスポーツの世界に正義貫く
「評」リオ五輪に暗いかげりさえ見える、世界の渾沌。四、五首の精神主義が、燦然と輝くことを祈るのみ。
東京都 伊集院洋介
ブラジルのラガーの友よ句の友よ心は逸るオリンピックに
念腹の思い通ずるリオ五輪幾年月の夢の青空
アマゾンの40トンのブルドーザー気心知れるほどに操る
トメアスの友の闘いよく知りぬ吠え猿の顔吠え猿の声
チェンソーとブルドーザーは休めども疲れを知らぬ吠え猿の声
吠え猿は八十路の夢に現われて口を鎖して消えて行くなり
【この度はニッケイ歌壇に入選して下さいまして、ありがとうございました。サンパウロに住む高校の一年先輩の手紙にコピーを同封してありました。「びっくりしたよ。巻頭に貴兄の短歌が載っていたので」とありました。ラグビーWカップの南アフリカ戦で大喜びした仲間の一人です。若くしてブラジルに渡った彼のことを詠んだのが今回の歌です。2016年リオ・オリンピックの大成を祈念いたして居ります。草々】
サンジョゼドスピンニャイス 梶田 きよ
忙しげに動く娘も時折りに猫の授乳のさまに見惚るる
犬ならばどんなにうるさきことだろう猫六匹の静けさはよし
こんなにも猫の眠るを知らざりきわれの昼寝はまだまだましよ
特別の猫の好物買って来る娘の表情は自信たっぷり
こんなに可愛い猫だからこそ買う人もあるかと受取る二百レアイス
「評」小動物の好きな人に悪い人はいないと言う。この作品を見るに、真にそう感じる。全てが善意と肯定にまとめられている。三月十六日に二回分の稿を掲載しているので紛失稿はないと思う。作品は他人の物でも全部眼を通してほしい。