ブラジル日本移民百周年記念協会の最後の事業、ポ語版百年史の3巻目、戦中戦後編『対立から統合へ』(1941~2008年)の刊行記念祝賀会が3月31日夜、サンパウロ市の文協ビル9階の移民史料館内で開催された。本山省三USP歴史学教授、エスタード紙論説委員の保久原ジョルジェ氏の共著。当日のエスタード紙文化欄でも報道され、異例の250人以上が詰めかけて会場は一杯となり、約200冊が頒布された。
戦中の日本移民迫害から勝ち負け抗争を「対立」、その後の日系社会内の対立解消からブラジル社会への融合を「統合」として描く全456頁の大著だ。保久原さんは「この調査はたいへん知的に刺激的な作業だった」と挨拶。
「勝ち負け抗争に関しては警察発表がメディアから垂れ流され、検証されることなく敷衍していた。例えば数々の殺人事件は臣道聯盟の仕業と考えられていたが、調査の結果、個人的な意図によって起こされていたことが分かった。その他、戦後の日系社会の統合に日系映画館が果たした役割の大きさ、日本語や日系社会の行方など大きなテーマが扱われている」と満足した様子。
本山さんは急用で欠席したが、代わりに西尾ロベルト委員が本人のメッセージとして「3年がかりで101人に、延べ300時間分の聞き取り調査をした。その中で移民女性の役割の大きさを痛感、移民史は思った以上にダイナミックなものであった」との実感のこもった言葉を読み上げた。
ポ語版編纂委員会の渡部和夫委員長は「ここに書かれている1941年以降の歴史は、まさに我々の時代のこと。先祖の歴史ではない。この種の本でこんなに人が集まるのは異例で、とても光栄」と挨拶した。
百周年記念協会(13年に解散)の上原幸啓理事長は、「戦中戦後に『ブラジルの敵』と言われて悔し涙を呑んだ日本移民が社会統合を果たし、称賛されるまでになった歴史がここに書かれている。本協会が日本語とポ語で百年史を出版できたことは、何よりもうれしい。03年に協会創立、16年にようやく最後の役割を果たし終えた。その喜びを分かち合いたい」と笑顔を浮かべた。
来賓には梅田邦夫大使も駆けつけた。本紙取材に対し、植木茂彬元鉱山動力大臣は「ブラジルの歴史の一部として書かれた移民史。大事な本だ」と位置づけ、来場者の一人、水上真由美さん(86、二世)も「移民の子として生まれた以上、このような歴史は絶対に残すべきものと思っていた。子や孫に読ませたい」とサインの列に並んだ。
ここまでのポ語3冊が百周年記念協会の事業。今後予定される2冊『文化編』(大原毅統括)、『移民史各論編』(平野セイジ同)は伯日文化統合協会からの刊行となる。同書は文協2階の同統合協会で入手できる。
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ポ語版百年史でも大きく扱われている終戦直後の「勝ち負け抗争」。臣道連盟が実行部隊に命じて暗殺事件が起きたという見方が長年強かったが、外山脩さん著『百年の水流』(2007年刊)以来、単独犯行説が見直され、今回のポ語百年史でも後者だとされている。そんなポレミックな同抗争のハイライトといえる46年の脇山事件を検証するドキュメンタリー映画『闇の一日』が、Youtubeで全編公開中だ。実行部隊の一人、日高徳一さんの証言を中心に脇山大佐の遺族やジャーナリストも登場して真相に迫っていく。日語版は(www.youtube.com/watch?v=kbaehRBjQ98)で見られる。ポ語版は(www.youtube.com/watch?v=QDf_egB3MG4)で。