「これからは危機の世代、新たなデカセギ子弟問題が浮上してきている」――NPO法人「カエル・プロジェクト」代表の中川郷子さんはそう話し、頭を抱えた。2008年金融危機後、日本に残るブラジル人はデカセギから定住者に変化しつつあると本紙でも度々報じてきたが、その子弟が小中学校の「特別支援学級」の高い割合を占めているというのだ。日本でのブラジル人コミュニティに何が起きているのか。(桃園嵩一記者)
「特別支援学級」とは、小中高校で〃教育上特別な支援〃を必要とする児童や生徒のために設置された特別クラス。主に知的障害者、肢体不自由者、身体虚弱者、弱視者、難聴者などが入れられる。そこに占める外国人児童の割合が異常に高まっているというのだ。
世界金融危機が起きて在日ブラジル人が大量帰伯を始めた08年頃に生まれた子供を、中川さんは「危機の子供たち」と呼ぶ。今7、8歳、小学校低学年の児童だ。「あるブラジル人が多い地域の学校Aでは、特別支援学級生徒12人のうち、10人が外国人の生徒」。
この傾向は、毎年日本各地のブラジル人コミュニティへ1カ月間ほど講演に訪れる中、「ここ数年で特に顕著になってきている」と警告する。
同じく外国人の多い県のある小学校には全校生徒303人のうち外国人が170人もいる。現場の悲鳴が聞こえてきそうだ。しかも特別支援学級の生徒は14人中11人と高い。外国人生徒と同じ割合で特殊支援学級にも多いのなら分かるが、9割を占めるのは明らかに異常だ。
中川さんの聞き取り調査では、ある支援学級に通う子どもの親は、「学級に関する詳しい説明がないまま、〃もっと個別に教育を受けることが出来る〃と同学級への入学を薦められた」という。
「とりあえず様子を見ましょう」と言われて支援学級に入学すると、普通学級に戻るのは困難だという。実際には知的障害ほどではないのに、言葉や文化の問題もあって、扱いが難しいとされると支援学級に送られてしまうのか。
支援学級への入学には「ウィスク」という知能テスト診断を受ける。同診断には、言葉による影響が大きくが出る。通訳をつけると、どうしてもニュアンスに差が出る。
例えば、犬や車のおもちゃを見せてその反応を見るというテストがある。中川さんは「通訳がいない時は『わんわん』とか『ぶーぶー』と言って伝えてみるようですが子供は反応しません。『カショーホ』と『カーロ』でしかないんですから」と指摘する。
支援学級の教育についても「ある学校では一日中とにかく走ることが授業、または花の手入れだけ。脳の発達の著しい時期にやる内容とは思えない」と警鐘を鳴らす。
昨年はデカセギブーム開始から30年だった。最初の世代はブラジルで教育を受けてから訪日した。だが日本生まれの「在日ブラジル人二世」や「準二世」が今は親世代だ。そんな彼らには日本語でもポ語でもきちんとした教育を受けていない場合があり、それが「三世」の知能発達に影響を与えているのではという。
そんな現場を見てきた中川さんは「20年前から次の世代には知能発達障害が起きるかもと問題提起してきたが、本当に起きてしまった…」と忸怩たる思いだ。「とにかく入学の基準を再確認することが大事。いろいろな知能テストを組み合わせるべきでは」と提案した。
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中川郷子さんによれば、日本のあるブラジル人託児所では30人の子どもを一室に入れ、「テレビをつけるだけ。刺激がなく、会話も無い」という。その環境が知能発達上の問題につながる可能性があるという。母子家庭の場合も多く、生活のため休みを削ってでも働き、子供と接する時間はその分だけ短くなる。ただ「育児放棄が起こっているわけでは決してない」と強調する。「何とかしようと同じ境遇の親は集まるが、泣くことしかできない。どうすればいいかわからないのです」。なかなか大変な問題だ。