本来なら今頃は、10月に行われる全国市長選挙に向けて盛り上がり始めていなければおかしいのだが、ジウマ大統領の罷免問題でそれどころではないブラジル。だが、その陰に隠れながらも興味深い動きは起こっている。
そのひとつが、サンパウロ市長選に、元同市市長で現在81歳のルイーザ・エルンジーナ氏(社会主義自由党・PSOL)が24年ぶりの返り咲きを目指して出馬することだ。
エルンジーナ氏は、ブラジルの女性政治家の歴史においても重要な存在だ。元々はサンパウロではなく、北東部のパライバ州の出身で、幼い頃からケーキ職人だった母を助けて働いていた。パライバ州立大学を卒業したのも、33歳の1967年だった。
エルンジーナ氏は1970年に北東部女性連合を率い、軍事政権に反抗したため、同州を追放される処分を受けた。彼女はサンパウロに向かい、そこで北東部から上京してきた、市の周辺部の貧しい人たちのリーダー的存在となった。
1980年、政党結成の自由が認められると、大サンパウロ圏の工業労組の委員長だったルーラ氏が作った労働者党(PT)に入った。
1989年、エルンジーナ氏はサンパウロ市長に、女性としてはじめて当選するが、それはまだ台頭間もないPTにとって初の大きな政治的役職でもあった。彼女の在任は、93年にサンパウロ政界の大重鎮でもあるパウロ・マルフ氏に破れ、4年で終わった。だが、彼女のPTでの存在は、後にサンパウロ市長になるマルタ氏や、離党して大統領候補となったマリーナ・シウヴァ氏、ルシアナ・ジェンロ氏といった、左翼系女性政治家のはしりとなった。
PTはその後、ルーラ氏が2002年の大統領選で勝利。それ以降、今日まで国政を握っている。だが、エルンジーナ氏はその前の97年にPTを離党し、ブラジル社会党(PSB)に移籍。以降、今日まで下院議員をつとめている。
高齢になっても元気なエルンジーナ氏は、2012年の選挙ではPTのフェルナンド・ハダジ氏の副候補になるはずだったが、かつての政敵で右派のマルフ氏がハダジ氏を支援すると言い出したのを不服として辞退している。
それからさらに4年。国を揺るがした汚職事件のラヴァ・ジャット作戦と未曾有の経済危機で揺れる中、ジウマ大統領(PTの女性大統領だがエルンジーナ氏と在籍時は重ならない)が罷免危機に直面したことで、PT政権そのものも危機の只中にある。
だが、かつての古巣が苦しむ中、エルンジーナ氏はサンパウロ市長選への出馬を決め、PT市長のハダジ氏に挑戦する。実に81歳での挑戦で、現在のブラジルで最大の急進左派であるPSOLからの出馬となる。
11日の会見でエルンジーナ氏は「市の役職を減らして引き締め、区長の権限を強めたい。区役所を単なる交渉の場にしたり、市会議員の汚職の温床の場にしたりさせない」などの市政改革を公約に掲げた。現状の政治に関しては「考察や批判の時間はない」としながらも、「カイシャ・ドイス(選挙戦の裏金用の口座)を持っている人がたくさんいるから気をつけた方がいい」と皮肉り、告発する意向も示した。
今回の選挙では、前述のマルタ氏も、民主運動党(PMDB)からの候補として12年ぶりの市長返り咲きを狙っている。(11日付G1サイト、フォーリャ紙サイトなどより)
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