【リマ共同】ペルーのウマラ大統領の任期満了に伴う大統領選が10日行われ、選管当局が発表した開票率約56%時点の中間集計によると、アルベルト・フジモリ元大統領(77)の長女ケイコ・フジモリ氏(40)が得票率約39%で首位に立った。得票は当選に必要な過半数に届かず、約24%で2位のクチンスキ元首相(77)と共に6月5日の決選投票に進むことが確実となった。
決選投票ではクチンスキ氏に元大統領の強権的な政治手法を批判する反フジモリ派の票が集まるとみられ、激しい戦いが予想される。3位は左派の女性国会議員メンドサ氏(35)で約17%。
ケイコ氏は記者団に「私に投票してくれた人々は私の公約を信じ、変化を望んでいる。大きな責任だ」と述べた。また、元大統領の現職時代に起きた人権問題を繰り返し取り上げて自身への攻撃に利用してきた対立陣営をけん制し、今後は政策論争を重視するよう呼び掛けた。
同国初の女性大統領を目指すケイコ氏は、前回2011年の大統領選でウマラ氏に敗北した。元大統領はインフレや左翼ゲリラのテロを抑え込む功績があった一方で、市民虐殺事件などで禁錮刑に服しており、負のイメージがケイコ氏の足かせになってきた。
このためケイコ氏は今回の選挙戦で、当選しても元大統領の恩赦はしないと強調するなど、元大統領との距離を置く姿勢をアピールしてきた。
クチンスキ氏は豊富な経験を武器に経済発展を訴え、メンドサ氏は環境破壊を伴う鉱山開発に依存する経済からの脱却などを主張している。
新大統領は7月に就任し、任期は5年。憲法規定で現職大統領の連続再選は認められておらず、ウマラ氏は出馬していない。
■ペルー新報記者■深まる地元日系社会の苦悩=「日系人の支持者減った」
ニッケイ新聞の取材に「あくまで個人的な意見ですが」と前置きをしながら語ってくれたのは地元邦字紙「ペルー新報」の伊藤忠明記者(26、四世)だ。
「多くの人がケイコ候補を支持する様子をみて、とても驚いています。でも私の見る限り日系社会の中で、ケイコ候補を応援する人が以前より、減ってきているのを実感します」。同紙で4人いる日本語部記者の一人だ。
一般社会で選挙合戦が激化する中で、なぜ日系社会ではケイコ支持者が減るのか。「エル・コメルシオ紙など反ケイコ陣営の報道を真に受けて、仕事の場などでの日系人への差別が増えているようです」。
フジモリ元大統領が完全に日系社会とは関係のないところから立候補し、日本亡命時には日系団体や日系人への誹謗中傷が相次いだという歴史もある。地元の日系団体は今も政治に関わらないことを明言している。
決選投票に向けた選挙活動の盛り上がりの中で、日系社会の苦悩も深まりそうだ。