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日本人のツボにはまったドン・ペペの清貧振り

現役時代のムヒカ大統領(2014年10月26日、Foto: Presidencia do Uruguai)

現役時代のムヒカ大統領(2014年10月26日、Foto: Presidencia do Uruguai)

 弊紙サイトの「ムヒカ大統領のリオ会議スピーチ」が先週から連日アクセスのトップにあるので、「なぜ?」と思っていたら、本人が訪日していた。どうやら「世界で一番貧しい大統領」ドン・ペペ(80、前ウルグアイ大統領)は、日本人のツボにはまったようだ。彼に関する本がベストセラーになり、日本の話題をさらっているらしい▼「共和制とは多数決なんだ。多数と同じ生活をしないと国民の気持ちは分からない」との独自哲学から、国民と同じ水準の生活をし、気持ちを共有するのだという。日本人好みの〃横並び〃や〃清貧〃の思想を地でいく稀な人物だから、日本で受けるのも当然かもしれない▼フジテレビの8日放送の緊急特番『日本人は本当に幸せですか?』を見る機会があったが、のっけから「日本中が待ちわびている」「世界(?)が注目する人物」とまるで「聖人」扱いなのに驚いた。この扱いはやりすぎだろう。ドン・ペペの問いかけが番組タイトルになり、それを軸に、番組は進行する▼彼を世界的に有名にした2012年「リオ+20」国際会議でスピーチの言葉の一つ「貧乏な人とは、少ししか物を持っていない人ではなく、いくら持っても満足しない欲深い人だ」は確かに肯ける▼番組では世界幸福度ランキングで日本は、13年より15年調査では7ランク下げて53位だったことも紹介する。15年の1位はデンマーク、ウルグアイは29位だ。国民の幸福度と、物質的な豊かさの基準とされる国内総生産とはまったく関係がない。物質的に最低限でも、考え方次第で十分に幸せになれるということだ▼ドン・ペペは幸福であることが一番重要であり、過剰消費主義がそれを邪魔していると批判する。現代人の一生は、次々に出る新商品を買うことに気を取られ、代金を払い続けるために捧げられているという。その結果、過剰な資源消費をし、地球環境の破壊という負担を次の世代に後回している▼彼の言葉で言えば、こうなる。「エゴイズムは競争を生み出し、科学や技術の進歩をもたらしました。だが、同時に危険なほどの欲望も生み出したのです。その欲望は全てを破壊しかねません。私たちは地球上のすべての人々が生きて行けるだけの資源を持っているのです。それなのに私たちは地球に〃借金〃をしている状態です。こんな愚かな間違いをしないように若者に伝えなければいけない」。NPOの若造に同じことを言われても聞く気がしない人でも、ドン・ペペが好々爺然とした風貌で言うと、つい聞いてしまう▼都内を移動中の車で、「なんでヨーロッパ系のモデルを広告に使うの。美しい日本人女性がいるのに」と不思議がる。全く同感だ。そこで同行記者から「日本人が幸せになるために何が必要か」と尋ねられ、すかさず「過去の歴史に自分のルーツを見つけ出す必要がある。かつての日本人はすごく強かったんじゃないかな。多くの障害を乗り越える強さを持っていた」と言い放つ。「今の日本はあまりにも西洋化してしまい、本来の歴史やルーツは、どこにいってしまったのかと問いたくなる。違うかね?」とも。これは移民が昔から邦字紙上で叫んできたことと全く同じ。「ヨッ!大統領。よくぞ言ってくれた」と快哉を挙げる弊紙読者も多いだろう▼これがブラジル大統領だったら―と心底思う…。南米の小国の前大統領が日本で聖人扱いの大歓迎を受けているのと正反対に、昨年末2度目の訪日ドタキャンをした南米の大国の大統領は、今週が〃人生最低の日〃になるかもしれない。(深)

必読=「ウ国外交界の頭痛の種=ドン・ぺぺの率直な発言語録=パラグァイ 坂本邦雄」
https://www.nikkeyshimbun.jp/2014/141203-61colonia.html