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「ある日曜日」(Um Dia de Domingo)=エマヌエル賛徒(Emanuel Santo)=(43)

「帰国後しばらくすると、南米が懐かしくなりました。スケールの大きさだけでなく、向こうの連中のうらやましいところは、いつも人生を楽しく生きて行こうという姿勢で、地球の裏側から来た私のような外国人でも、一人の人間として受け入れてくれるような心の豊かさをもっていることです。日本は経済大国とか言っても、そこに住んでいる人間は、いつも何かに駆り立てられて不安そうで、他人を思いやる余裕すらなくして生きています。そんな時に、懐かしの南米を思い出させてくれるクラブが歌舞伎町にあることを知り、週末の夜に出かけるようになりました」
「『エル・パライーソ』ですね」
「ジュリオさんは何でもご存知だ。そこに通うようになって間もなく、『エバ』という女性に出逢った時は驚きました。アナと顔と姿がそっくりでした。彼女を指名して個人的に話してみると、彼女の本名がカロリーナで、アナの妹であることが分かりました。いつかアナが、サンパウロに双子の妹がいると言っていたのを思い出しましたが、まさか東京のそんな場所で出会うとは・・・、世の中にそんな偶然があるのかと思いました」

【第20話】
 「エル・パライーソ」での偶然の出会いから二人の仲は急速に深まり、カロリーナにとって木村社長は、客の立場を超えて交際する唯一の男になった。
「アナの妹が水商売で働いていたことは、正直言って、少しショックでした。でも、あとで聞いてみると、いろんな事情があったことが分かりました。私はカロリーナを経済的に支援したくて店に通い続けましたが、そのうち彼女は、商売抜きで店の外で逢ってくれました」
 木村社長と知り合った頃、まだ旅行会社の社員だったカロリーナは、研修旅行での見聞から、群馬や栃木など南米からの出稼ぎ人が多い地域にコーヒーの自動販売機を設置することを社長に提案した。カロリーナのアドバイスは的確で、木村屋コーヒーは北関東周辺で順調に売り上げを伸ばした。
「カロリーナのおかげで、何か心がウキウキして、仕事で嫌なことがあっても、彼女と会うと癒されてしまいました。ドリップ式のコーヒーバッグが爆発的に売れ出したのもその頃でした。アナと同じように、妹のカロリーナも私に幸運をもたらしてくれる女神でした」
「私の会の調べでは、カロリーナさんは、会社を辞めてからお店のレギュラーメンバーになって、ずいぶん稼いだみたいですね。木村社長もパトロンみたいな存在だった?」
「まあ、仕事がうまくいって少し余裕ができたんで・・・。実は、カロリーナと仲よくなるにつれて、彼女を独占したくなったんです。商売とはいえ、彼女が他の男と一緒にいるのを想像するのはつらくて・・・。金銭上の問題が解決したら、そんなところは辞めてもらいたいと思っていました」
「恋する男のその気持ち、よく分かりますよ」
「でも、ある週末の晩にエル・パライーソに行って、彼女が店を辞めたと聞いた時はショックでした。彼女から何の連絡もないので、私なりに調べたところ、ある筋から彼女がブラジルに強制送還されたことを知りました」
「なるほど、思いがけない別れだったわけですね。で、カロリーナさんと先月3年半ぶりに会われて、どうされたんですか」
「カロリーナには会社の用が終わるまで近所の喫茶店で待っていてもらい、そこから二人で近くの高層ビルにある眺めのいいレストランに食事に出かけました」