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天下分け目の決戦は17日=解任賛成340票、反対124票程度=沈む夕日のアルボラーダ=駒形 秀雄

13日、罷免の瀬戸際にいることを感じさせない、堂々たるジウマ大統領(Foto: Lula Marques/Agencia PT)

13日、罷免の瀬戸際にいることを感じさせない、堂々たるジウマ大統領(Foto: Lula Marques/Agencia PT)

 いま、連邦議会では『ジウマ辞めろ』大統領解任(罷免、IMPEACHMENT)の審議が進んでいます。下院ではその解任案をこの日曜日、17日に可決して次の上院の審議に回すか? 或いはその案を否決して今のジウマ政権を続けさせるか?―という決定の投票が行われることになっています。投票の結果によって、国を代表する大統領が代わるだけでなく、国の政治を左右する政党も代わる、大臣以下の公職幹部も代わることになります。ですから、各関係者は優位に立つべく、ここを先途と攻防を繰り広げています。ところがこの攻防がゴチャゴチャしていて、私達一般大衆には何とも分かり難い。国の本当の権利者である国民として、一体今どういう状況になっているのか、知りたいところです。ということで一寸政権争奪戦、どんな具合になっているのかチェックしてみましょう。


俺もなりたや政権党に

15日、下院本会議で始まった罷免審議の様子。クーニャ下院議長にとって〃最後のお勤め〃になるか(Foto: Camara dos Deputados)

15日、下院本会議で始まった罷免審議の様子。クーニャ下院議長にとって〃最後のお勤め〃になるか(Foto: Camara dos Deputados)

 政治家になった以上、政府の要職を占めて、自分の信ずる方向にむかって国を運営して行きたい、これは当然です。
 現PT政権が国民の支持を失い「支持率10~20%」と下落し、政権交代の機運が生まれた。上手いことに『ジウマ辞めろ、PT出て行け』のインピーチメント(ポ語発音ではインピーチマン、解任案)が請求されている。このチャンスを逃すべからずと、まず立ち上がったのが最大与党だったPMDB(民主運動党)です。
 もし大統領が退任すれば、自党のテーメル副大統領が昇格して自分達が政府の実権を握れるからです。そして、先月末、ジウマ・PT政権との長年の提携関係を解消して、政権からの離脱を果たしました。
 でも提携解消といえば聞こえは良いが、実際はジウマ・PTに敵対して自陣の味方を増やす工作を始めたのです。
 現在PMDBは70票近い下院議員票がありますが、66議員ほどが解任に賛成です。こうなると従来政権与党だったPP(47票)や、PSD(39票)なども穏やかでは有りません。今の政権とこのまま行くか? 次に新政権(PMDB)が出来るなら、そっちについた方が得策か? 党首脳も、一部は賛成、一部は反対の所属各党員も揺れ動きます。他の中小規模政党も事情は同じ、どうするか、右往左往しています。
 PTは自党の大御所ルーラ前大統領に出馬願い、政界工作を頼みました。一方、PMDBテーメル側も野党最大のPSDB党(51票)や、産業界幹部と会合を重ねて、その協力を依頼したりしています。


何票取れれば良いか

昨年9月8日にジャブル宮で行われた会議の様子(Foto: Valter Campanato/Agencia Brasil)

昨年9月8日にジャブル宮で行われた会議の様子(Foto: Valter Campanato/Agencia Brasil)

 今まで何回か報道されているので皆様ご存知かと思いますが、一体何票集めたら解任提案を通せるのか(ジウマ内閣を倒せるのか)、逆に現政権は何票取れば解任提案を廃案に出来るのか? この辺、復習してみましょう。
【PMDB】は、投票は自主判断でと言っているが、党員の90%は解任賛成と見ています。
【PP】(マルフが居ます)は色々あったが、12日党として、解任賛成を決めました。
【PSD】(カサビ前サンパウロ市長が居る)は13日、解任賛成を発表。
 この様な兄貴分の決定を受けて中間党派は、「バスに乗り遅れてはいけない」と解任賛成側への〃地すべり現象〃が起きているようです。
 但し、多くの党派では一部議員は党方針に従わず、自分の利害に応じて投票する、と見ています。


ジウマ「GOLPEには屈しない」

 PTジウマさんとしてはルーラや現閣僚の協力も願い、解任阻止に必死ですが、『昨日まで同志ずらして旨い汁も吸ったテーメル』『自分の解任要求には知らんふりで、ジウマの解任を異常な速さで進めたクーニャ議長』には特に腹を立てているようです。
 ジウマ曰く「私は選挙で数百万の国民の支持を得て、正当に大統領に就任した。それを難癖つけて、確実な根拠もないのに無理やり解任しようとしている。何だ! 同志を裏切ってこういう動きをするとは陰謀家のすることだ」
 「こんな無理(GOLPE)を通してはこの国の民主主義は破壊される。私は絶対に屈しない。全身全霊を傾けて自分の信ずる道を行く、民主主義を守る」としています。
 大戦末期、圧倒的な敵軍を前に凛として立ち向かった日本軍司令官の姿を思い出させますね。
 しかし、表では気を張ってガンバッていても、夜広い公邸に帰って来ても、ガランとして愚痴を言う相手もいない。私は一人ぽっち、疲れがドッと出る。空しい…。
 公式会見の時、「でもね大統領、本当に解任案が通ったら、その後はどうするのですか?」としつこい記者の質問に、こう答えました。
 「(解任されたら)私は要らなくなったトランプのカードみたいなものでしょ。ポルト・アレグレの家に帰って(ゆっくり)引退生活(アポゼンターダ)をしましよう」 ポルト・アレグレには娘と孫が居ます。


引きもきらないジャブル宮詣で

 一方、テーメルさん(MICHEL TEMER)はサンパウロ州出身で、元々は弁護士です。副大統領時代は全く「かげの人」で面白くないことも有ったようですが、今回は大いに変わって活発に動いています。
 まだ、ジウマ大統領の解任が決まらないうちに、『自分の政権が出来たらこの様にする』という一般向け演説まで準備しました。もちろん、発表は解任決定後を予定していたのですが、どうしたことか『誤って』マスコミの手に渡り、内容が一般に公表されました。
 曰く、「私が大統領になったら反対勢力をも含む多くのグループと提携して『挙国内閣』を立ち上げる」
 「そして、民間の活力もいかし経済を再び立ち上がらせる。私が政権の座についたら、今の貧困層救済策や学生奨学制度がなくなるという人がいるが、それはデマだ。私は勿論、継続し、強化する。ただ、この国の再建にはある程度の犠牲、我慢も必要になる。理解を願いたい。企業で仕事が増え、利益が出れば、労働者の働き口も増える。労働者皆さんもこの辺を理解し、企業、労働者一体となって経済を良くしよう。結果が出るまで少し時間がかかるかもしれないが、この国は必ず良くなる。皆で力を合わせてガンバリましょう」だそうです、
 全くその通りですね。ちなみに、テーメルさんは76歳です。
 テーメルさんのブラジリア住所は副大統領公邸=ジャブル宮(PALACIO DE JABURU)です。現在ここは訪問客が引きもきらず、あたかも宗教の巡礼者がジャブル宮詣でをする様な賑わいです。
 投票を控えたこのごろは政治家で一杯、毎日フェスタのような状況だ、との事です。


登る朝日のジャブル宮、沈む夕日のアルボラーダ

 ちなみに「alvorada」は「夜明け」の意味ですが、それが「夕日の宮」になってしまっているのですね。
 時のながれには逆らえません。