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「ある日曜日」(Um Dia de Domingo)=エマヌエル賛徒(Emanuel Santo)=(48)

 人数が増えたので、別のテーブルに移動して、全員ゆったりと着席。オーダーはシュラスコ食べ放題のコースと決めていたので、それぞれ飲み物を注文し、再会を祝して乾杯した。
「今日は、ご招待ありがとうございます。彼、日曜日はいつも東京に踊りに来るので、一緒に来ようということになって、ついでにアドリアーナも連れてきました」
「そりゃよかった。今日一日、リカルドは二人の監視役だ。いかにも南米的だね」
「今日の午前中は、彼がいつも踊っている代々木公園という所に連れて行ってもらいました。いや、すごいですね。踊りだけじゃなくて、いろんなバンドや派手なファッションの子がたくさんいて、本当に楽しかったです。ジュリオさんに連れて行ってもらった所もそうですが、東京には面白いところが多いですね」
「それから、歩いてここに来る途中に、若者であふれた何とか通りとか言う・・・」
 『竹下通り』ですよと、フリーター君が解説してくれた。
「リカルドさんもアドリアーナも、何か見る度に ワーとかキャーとか大げさに喜んでくれるんで、案内のし甲斐がありますよ。南米の人は陽気で明るいですね。この間、文化の日にイベントがあって、二人とも子供たちと一緒にサンバショーに出たんですが、踊っている姿を見ると、やっぱり二人ともブラジル人だなあと思いましたよ」
「僕はあまりうまくないですが、アドリアーナのヒップホップとサンバは本物ですよ。感心して見ていた会社の課長さんを舞台に誘って一緒に踊りだしたのには参りましたけど」

 リカルドが「日本人」のように謙遜しながら言った。
「そうか、会社の偉い人も来てくれたのか。これからは職場の雰囲気も良くなるかもしれないな・・・」
 楽しく話をしていると、焼きたての何種類ものバーベキューが回ってきた。三人ともすごい食欲だが、やはりリカルドとアドリアーナのブラジル組のペースが速い。私の方は、年のせいか、ビールとつまみだけで腹が膨れてしまい、『肉はもう結構です』を意味する札を、早々とテーブルに置いてギブアップした。
 若者たちの腹が満たされた頃に、お待ちかねのジュリアーナがステージに登場した。薄化粧にジーンズ姿のその歌手は、この間どこかのクラブで会った『マリア』さんとは大違いだ。こちらのテーブルに両手で投げキスを送ってくるしぐさは、まさに日本人の顔をしたラテン女だ。
「日本人がブラジルに移住してそろそろ100年だけど、リカルドも、ジュリアーナも、アドリアーナも、日本人の子孫は皆頑張ってるな。本国の日本人ももっと頑張れよ!」
 フリーター君の肩を叩いて説教していると、自分でも昼間の酒が効いてきたなと感じたので、黙ってジュリアーナの歌を聴くことにした。
 ボサノバが3曲続いたあとは、ブラジルの大物女性歌手ガル・コスタのかつてのヒット曲『ある日曜日(Um Dia de Domingo)』だ。ジュリアーナは最近ずいぶん歌がうまくなって、彼女の透き通った歌声にレストラン中の客が注目して聴き入っている。
『・・・君と座っておしゃべりがしたいな・・・いつかの日曜日のように』
 曲の歌詞を聞きながら、リカルドがポツリと言った。
「何か僕の思い出を歌っているみたいに感じますよ。この曲、1980年代によく聴きました。あの頃は両親が元気で、三人で楽しく過ごした日曜日が今でも懐かしいです」