常にザワザワしていた上院が、その時だけ静まりかえった。「私の時は4カ月で最終投票まで進んだが、今回は現段階までで8カ月。今日の評決次第で、あと6カ月も審議時間がある。罷免の段取りは同じだが、内容の厳密さはまったく別物だ」。11日、上院での大統領罷免の審議開始を決める投票で、フェルナンド・コーロル上議(元大統領)はそう、自分の時と比較した▼1992年9月2日に下院で罷免審議が始まったコーロル大統領は、12月29日の上院罷免最終評決の直前に辞任した。実際に罷免される立場に置かれた彼が、今回どちらに投票するのか―これは投票の山場の一つだ。15分間の意見開陳ではどちらでもとれる内容だったが、投票では「Sim」に入れた。つまり、「自分の罷免審議は正当ではなかったが、今回は正当だ」と、数少ない〃経験者〃が判断した▼92年時には下院で審議継続投票から上院での審議開始が決まるまでは《たった48時間》だったが、今回は23日間もかかっている点を、コーロルは強調した。下院の特別委員会が上院に今回提出した、なぜ罷免すべきかをまとめた意見書は128頁もあった。同じものが92年の時は《たった半ページ。しかも2段落しかなかった》とも▼コーロルは《私の代弁をしたのは自分で雇った弁護士だった(現在は総弁護庁長官)。今回のように連邦議会でたっぷりと抗弁する機会も与えられなかった》とも。彼は辞任した後に不服申し立てをし、2年後に選挙高等裁判所で逆転判決を得た。《選挙中にウソをついていたことをテレビで謝るべきだと、ジウマに進言した。でないと罷免されるかも、と。でも彼女は聞く耳を持たなかった》。コーロル罷免時に「Nao」を投票した下議38人の一人、ロベルト・ジェフェルソンPTB党首は今回「あの時(92年)こそがゴウペ(クーデター)だった」とコメントした▼上院投票が早朝まで続いた12日は強烈な印象を残した。たった一日の間に、なんと二人の国家元首の演説文が、大統領府広報からメールで送られてきたからだ。ジウマは《私は5400万人の投票で選ばれた正当な大統領。罷免はゴウペだ》との耳にタコの言葉の繰り返し▼ブラジル史上、未曾有の100万人以上の大抗議行動を起こされてすら、ジウマは一切反省の色をみせなかった。自分を批判する者との対話を増やすどころか、攻撃を強めるばかり。その結果、だんだん敵を増やして味方を減らす流れが生まれ、与党から大量離脱を招き、ついに罷免という「王手」をかけられた▼対するテーメル暫定大統領のメッセージは《対話》と《救国》を強調し、《国を安定化させ、ブラジルを団結させることが急務》と真っ当すぎるぐらい真っ当な内容▼最初にテーメルがやるべきことは、連邦政府の贅肉をそぎ落とすことと、PTの13年間の膿を吐き出すことだ。前者は大幅な省庁削減に加え、「4千人の官僚解雇」との宣言で、その片鱗を伺わせた。問題は後者だ。徹底的に隠し負債や不良債権を洗い出し、白日の下にさらすべきだ。10月の地方選挙に向け、PTの足元を崩す意味でも、五輪の合間を縫って、順次そのような数字が発表されていくだろう。国民に分かりやすい形で、財政赤字がいかに莫大かが見えてこないと、来るべき〃苦い薬〃に有権者は納得しない▼とはいえ目下、テーメル最大の課題の一つは、マラニョン下院議長代行の処遇だ。今週から矢継ぎ早に、さまざまな経済政策等が打ち出され、下院にかけられる。迅速に審議・可決が進まないと、新政権は出鼻をくじかれる。PT政権の〃最後の切り札〃(4・17下院罷免投票の無効化を宣言)の大役を果たした同議長代行は、テーメル政権の喉もと深くに刺さった危険な刺だ。(深)