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ペルー大統領選=父巡り、家族にあつれき=フジモリ氏、日本とも距離

 【リマ共同=渡辺雅弘、中川千歳】ペルー大統領選は、前回に続きケイコ・フジモリ氏(41)が僅差で敗れた。在任中の人権侵害事件で服役中の父アルベルト・フジモリ元大統領(77)が残した負の遺産は大きい。選挙に勝つため、父と対照的にあえて日系人であることをアピールせず、持病を抱える高齢の父の釈放も否定し続けたフジモリ氏。選挙戦では家族内のあつれきが目立った。

 ▽救世主
 正直で勤勉なサムライ―。1990年の大統領選。東洋人の顔を持つダークホースの候補が浴衣姿で日本刀を構えた写真が雑誌の表紙を飾った。インフレやテロに苦しんでいた国民は、経済大国として名をはせていた日本にルーツを持つ「救世主」に胸を躍らせた。
 日本とのつながりを強調した元大統領は、後にノーベル文学賞を受賞した作家バルガス・リョサ氏を大逆転。怒濤の勝利は「ツナミ現象」と呼ばれた。当選直後に日本を訪問。巨額援助を引き出し、貧困対策に当てた。長女のケイコ・フジモリ氏の支持層も貧困層が中心だ。元大統領の現職当時の政策はフジモリ派が長年、国会で第1党に居続ける礎となっている。
 ▽新戦略
 2011年の大統領選で、汚職や人権侵害を巡る元大統領への批判に抗しきれずに決選投票で敗れたフジモリ氏。「負けてから1週間休み、国中を回る旅を始めた」。熟慮の末、今回は父親との距離を明確にする戦略に転じた。元大統領の時代の汚職や国会解散、憲法違反と批判された3選―。いずれも「過去の過ち。繰り返さない」と主張した。
 父の象徴だった「日本」とも距離を置いた。選挙戦では日系人であることに極力触れず「中南米との関係が最優先だ」と強調した。主要産品の銅の輸出先である中国の存在感が大きくなり、もはや日本は経済的に頼る相手ではないからだ。
 戦略は奏功し、選挙戦を優位に進めたが、最終盤で追い上げられ、父と同年齢のクチンスキ元首相(77)にわずかに及ばなかった。2人の政策に差はなく、前回の大統領選で3位だった元首相に明確な勝因はない。結局、フジモリ氏が父の呪縛から逃れられなかった。
 ▽姉と弟
 選挙戦では家族内のあつれきが表面化した。昨年12月、元大統領は国会議員選で側近4人をフジモリ氏が率いる政党の公認候補とするよう求めたが、フジモリ氏はうち3人の公認を拒否した。父の影響下にあることを否定するためだ。
 弟で国会議員のケンジ・フジモリ氏とも一騒動があった。4月下旬、フジモリ氏は今回の選挙で勝った場合、次回21年の大統領選にはケンジ氏は出ないと明言したが、ケンジ氏は無視し立候補の考えを公言。4人きょうだいで父親と一番仲が良いケンジ氏は、頻繁に元大統領の収監先を訪ねているとされるが、フジモリ氏が訪問したのはこの半年で2回だけだ。
 決選投票でケンジ氏が投票しなかったとも報じられた。無罪放免を切望し、批判を気にせず父との絆を強めてきた弟。選挙に勝つため、意図的に父親や日本から離れた姉。フジモリ氏は5年後の次回大統領選への再出馬を視野に入れているとみられる。あつれきを残した苦い争いは今後に響きそうだ。