有名なテレビ番組司会者マルセロ・タスは6日朝、CBNラジオで「我々は森の中で迷ったヤマトだ。ブラジル版タカユキはどこにいる!」と叫んだ。これは、日本中はおろかブラジルでも連日報道されていた田野岡大和君の件だ。ブラジル人は日本人にどんなイメージを持ち、この事件から何を考えたのか?▼産経ニュース電子版3日付は事件概要を《北海道七飯町の林道で行方不明となり、7日目の3日朝に鹿部町の陸上自衛隊駒ケ岳演習場内で保護された小学2年、田野岡大和君(7)=北斗市=の父親が報道陣の取材に応じ、「私の行き過ぎた行動で息子に大変つらい思いをさせてしまった」とし、「皆さまにご迷惑をおかけし、深くおわびいたします」と謝罪した》と伝えた▼公園で道行く人や車に石を投げた大和君への「しつけ」として、父貴之さんは彼を林道に置き去りにした振りをして約5分後に戻ったが、すでに姿がなくなっていた。7日後に見つかった時、父は記者会見で子供に加え、「ご心配をかけた」と社会全体に謝罪した▼タスはこのニュースに触れ、「この父親の態度には心から驚かされた。日本には〃しつけ〃として子供を放置して、自分で自分の問題を解決させる文化がある。にも関わらず、タカユキは自分の責任を認め、社会に謝った。ブラジルではありえないことだ」と声を張り上げた▼南米大陸初の名誉ある五輪開催まで2カ月を切った現在、国家元首だったジウマ大統領は停職させられ、罷免の瀬戸際にある。にもかかわらず、彼女は国家財政を破たんさせた財政責任を認めず、逆に「クーデターの被害者」だと言い張る。謝罪の「しゃ」の字もない▼汚職まみれのクーニャ下院議長は職責剥奪されて議席も罷免スレスレで、誰も認めたくない人物が議長代行に居座る。レナン上院議長と最大与党PMDBのジュッカ党首も連邦検察庁に告発され、いつ起訴されてもおかしくない。サルネイ、コーロル、FHC、ルーラなど現存する大統領経験者全員に何らかの容疑が…。ある意味、国家中枢が丸ごと腐っているような未曽有の政治危機、財政大混乱の状態にある▼ブラジル国民は、深い、深い森に迷い込んで、出口が分からない子供のようだ。だからタスは、「ペトロブラス疑惑の渦中にいる誰一人自分の非を認めず、謝るものはいない。我々国民は森の中で迷ったヤマトと同じではないか」とあてつけた▼「ブラジル版タカユキはどこだ!」という彼の言葉からは、大混乱状態にした政治家本人が責任を認め、「家長」としての信頼を取り戻す、謙虚で勇気ある行動を日本の倫理から学べ―と云っているように聞こえる。自らの非を認める政治家を求める、国民の気運を代弁している▼社会への謝罪を公に口にした数少ない政治家は、デウシジオ・ド・アマラウ元上議や、メンサロン事件の口火を切ったロベルト・ジェフェルソンPTB党首ぐらいではないか▼さらにタスは、「日本には謝罪に加え、もう一つの選択肢がある。ハラキリだ。責任を取って自らを罰するのだ」と迫る。「ハラキリ(責任を認める)」=「自白(司法取引証言)」という図式か。汚職の全てを白日の下にさらけ出して政界を完全浄化し、日本人のように国民に謝罪しろと言っているようだ▼でもタスがそう言ってジャポネースを持ち上げた翌日、〃正義の味方〃のはずの「連邦警察のジャポネース」が逮捕された。今のブラジルは、本当に(悪い意味での)〃期待〃を裏切らない。はぁ~(タメ息)。まあ、移民も108周年にもなれば「悪役」や「間抜け役」のジャポネースが誕生しても仕方がないか…。(深)