ホーム | 文芸 | 俳句 | ニッケイ俳壇(892)=星野瞳 選

ニッケイ俳壇(892)=星野瞳 選

   アリアンサ         新津 稚鴎

虻が来て蝶来て天気葱坊主
着ぶくれて南風寒き国に老ゆ
行く秋や牧場に白き月残し
草山の草分けのぼる秋の風
雲の峰一日崩れず牧遅日

   プレジデンテ・プルデンテ  野村いさを

ボーロ切る児等の歓声春隣
八百の寄贈書分類暮れ易し
冬うらら編棒を手にバスを待つ
降るように見えねど寒雷又一つ
贈られし酒熱燗でしみじみと

   カンポスドジョルドン    鈴木 静林

柿祭り外孫二人太鼓打ち
ブラジルによき菌有り茸狩り
山に遊び山の土産の木の実色々
形よき木の実そろえて首飾り
暮の秋山で樵の斧の音

   サンジョゼドスカンポス   大月 春水

敬老の宴に卆寿の背は低し
母の日ゆ母の遺徳を偲ぶ秋
さみだれやタライに落つる音割つ
緋寒桜咲き彩りぬ広き園
老うて尚忘れぬ人あり遠思ふ

   ジョインヴィーレ      筒井あつし

清楚なる民族衣装秋祭
アコデオン奏でるガウショ秋祭
ドイツ人ワインで祝う秋祭
チラデンテス国は汚職で揺れ動く
雲一点なき明けの空冬隣る

   ペレイラ・バレトット    保田 渡南

バルサよりなだれ出づるや旅の牛
産みし仔を隠して牛や霧に吠え
大豆の野尽きし所に滝の町
時計塔霧の空より時告ぐる
ダムの風吹きつのる夜の虎落笛(もがりぶえ)

   サンパウロ         日野  隆

色よい柿食らいつけども歯たたず
黄金の稲穂の先を風なでる
中秋の月にささげるよもぎ餅
秋の夕日つるべ落としの早さかな
孟宗竹いつの間にやら天をつく

   ピラールドスール      寺尾 貞亮

落胆の国をも照らす月今宵
ゴウペ受く大統領や秋入り日
まん丸の秋の夜明けの朱い月
宵闇の空にきらめく朱い月
吉野旅桜前線待ち伏せり

   リベイロンピーレス     中馬 淳一

空っ風泣く如電線ヒュヒュと
庭の花木しぼんで詮なし秋旱
すやすやと妻の寝息や夜長かな
椅子にかけ歳時記を読みつ日向ぼこ
夜が寒むかろうと襟巻編みくれし

   東京都中野区        伊集院洋介

雲間より植田数える米軍機
空爆にビクリともせぬ植田かな
ナパームより植田の勝利ベトナム戦
ナパームに八十八回植田勝つ
ナパームに植田勝つ実りかな

   ヴィネード         栗山みき枝

回転焼十年来の職人の味
四つ割の西瓜母娘でもてあまし
星空に余命のことなどしみじみと
満月や椰子の葉影の絵となりて
不器用でも少しはやれる老の家事

   サンパウロ         寺田 雪恵

叱られて泣く声運ぶ秋の風
濃いうすいと云いつつ甘酒囲む友
干し柿も干し栗の甘さも里山の味
甘酒に生姜たっぷり風邪ひかず
乱世にまどわされいて秋寒し

   モジ・ダス・クルーゼス     大田よし子

着ぶくれて口癖となるどっこいしょ
干し毛布に母のぬくもりいただきぬ
この国に老いて悔無き人世得し
寒紅をそっとつけるも身だしなみ
サビア鳴く只我がために鳴く如く

   マナウス          東  比呂

秋風に群鳥高く流れ舞う
電話声ふくみ笑いの四月馬鹿
そうかそうかそれはと四月馬鹿
夢も又とぎれとぎれの夜長かな

   マナウス          東 マサエ

鰯喰ぶ冷凍なれど海の香する
秋風に咳込む母の百才近し
菊香り店頭に立ち時忘れ
鉢の菊育てし人を思い出す

   マナウス          宿利 嵐舟

懐メロのなぜか身に入む日暮れ時
秋風や白頭かいて濁り酒
人生も下り坂なり秋の風
空の青透かしてつずく鰯雲
友去りて秋風頬をなでてゆく

   マナウス          松田 永壱

神経痛寒さ身に入む衣替え
口淋し昼のおやつに干しぶどう
孫娘秋風受けて嫁ぐ日よ
秋空の飛機より眺む花畑
秋高しアマゾン下る船一艘
新米の香り豊かに膳囲み

   マナウス          山口 くに

山ぶどう友と狩りたるふるさとで
鋏入れ片手に重きぶどう狩る
連山のミナス道辺に売るぶどう
マナウスへ帰るイゾポルにサルジンニャ
草の穂をなびかせ道辺の秋の風
ポンタネグロ岬に立てば風は秋
欲と嘘国政乱れて四月馬鹿

   マナウス          橋本美代子

身に入むや亡き人よりの手紙焼く
中腰のままに選んだ葡萄狩
秋の風乾いた草の香の流る
嘘であること云いそびれ四月馬鹿
ひと睨みされて許さる四月馬鹿

   マナウス          村上すみえ

身に入むや島に残し来し祖父と祖母
身に入むや祖父母と別れて五十五年
秋風や人の世に別れ知る夕べ

   マナウス          丸岡すみ子

身に入むや地震に九州ひび割れて
身に入むや閉店解雇の増えし街
粒揃いつや良き葡萄ずっしりと
団欒に丸く連らなり葡萄食ぶ
アマゾンやバッタ餌で釣る川鰯
真に受けてしばし沈黙四月馬鹿
四月馬鹿ネットにデマの飛び交いて

   マナウス          渋谷  雅

戦前の移民の歴史身に入むや
大粒の食べるに惜しい熟れぶどう
アマゾン河の鰯も本当においしかり
昼の市河の鰯のたたき売り
秋の風サワサワ衿元通り行く
故郷に別れを告げて秋の風
四月馬鹿騙されぶりも一と苦労
チョコ玉子今年は高値で売れなやむ

   パリンチンス        戸口 久子

秋来れば冷気感じて身に入みる
カノア来る底に鰯がはねている
秋の風樹海の峰に大河にと
秋の風濁流の大海吹き渡る
罪のない人をだまして四月馬鹿
アマゾンは二世の故郷天の川
アマゾンに六十一年天の川
青春をアマゾンに賭け木の葉髪
ブラジル人の従業員が三十人
パリンチンス四十二年今スーパーに

   トメアスー         新井 敬子

絵を描く子お日様はみなひまわりに
母の日や三児の母も喜寿となり
泥蟹や殻の山ほど腹満ちず
野も山も輝いている雨季夕焼
雨季夕焼今日も一日頑張れた

   トメアスー         新井 伯石

母の日や愛燦燦と輝けり
開放感ベレンの郷愁カランゲージョ
向日葵やモレーナ天国バイアーナ
雨季夕焼け移民の郷愁かき立てる
泥蟹やベレンの匂いベロペーゾ

   トメアスー         角地 浅間

一丁前に泥蟹食い成るパラエンセ
ひまわりの笑顔に元気の種もらう
雨季夕焼け悲報でにじむ郷景色
亡き祖父の行く道照らせ雨季夕焼け
殻積もる泥蟹酒瓶夢のあと

   トメアスー         峰下 牛歩

母の日や母性のジルマ国統べる
雨季夕焼け重し空重し
泥蟹を食って永住覚悟せり
母の日やピンガ俎太き棒

   トメアスー         伊藤 民栄

ひまわりや日本外交和の心
母の日や母の温もり永久に咲く
グアマ河の橋から臨む雨季夕焼
ひまわりや輝く太陽生みの親
泥蟹や自然の恵み舌鼓

   トメアスー         伊藤えい子

雨季夕焼読経は友の一周忌
渋滞は母の日祝う車列かな
母の日の思い出母の手作り味
ひまわりのような笑顔で迎えらる
州はなれ泥蟹恋うる子の電話

   トメアスー         池田アヤ子

母の日や待ちし花壇の完成す
母の日や幸せの日々句に花に
雨季夕焼明日の天気を祈りつつ
母の日や晩学の句座呆け防止
お出かけの晴天祈る雨季夕焼

   トメアスー         半沢 典子

空港は向日葵畑のどまん中
全身に雨季夕焼をまといけり
雨季夕焼け大河ゆっくり寝入りたる
山盛りのカランゲージョを貪りぬ
泥蟹やむしゃぶりつきし日の遥か

   トメアスー         高谷 幸子

母の日の会いたき母は彼方なり
ひまわりに見習う笑顔気のくばり
アマゾンの雨季夕焼けに森燃ゆる
泥蟹に床汚されて車進む
忽然と雨季夕焼のあとの闇

   トメアスー         大槻 京子

泥蟹を食んで更け行くベレンの夜
雨季夕焼け異国暮らしを四十年
故里の山梨恋ふる母の日に
ひまわりに一番似合う青い空
母の日や母の自慢の五目飯

   トメアスー         三宅 昭子

旅の宿ただひまわりに迎えらる
アマゾンの樹海を染めて雨季夕焼
農に生く男のロマン雨季夕焼
泥蟹の鋏は最後の楽しみに
母の日や五十年目の妹の忌に