6月12日、コパ・アメリカ100周年記念大会、1次リーグ最終戦でブラジルはペルーに0対1で破れ、グループリーグ3位に陥落、同大会から姿を消した。
ペルーの決勝点は完全なハンドで、ブラジルに同情の余地はあるが、初戦のエクアドルでは逆に誤審に助けられ、辛くも引き分け。エクアドル、ハイチ、ペルーと戦い、わずか1勝、同じ南米のエクアドル、ペルー相手にノーゴールでは、8強入りに値するパフォーマンスだったとは言いがたい。
ブラジルサッカー連盟(CBF)の動きは早かった。帰国直後のドゥンガを呼び出して解任を告げ、後任として、コリンチャンスのチッチに就任を要請した。
2011年の全国選手権、2012年のリベルタドーレス杯、クラブW杯、2015年の全国選手権など、コリンチャンスを率い、近年のタイトルを総なめにしてきたチッチは、CBFにとってまさに切り札だ。
しかし、チッチ就任でブラジル代表の状況は劇的に改善するかといわれれば、事はそう簡単ではないだろう。
そもそも、CBFの会長、マルコ・ポーロ・デル・ネーロ氏は、昨年のFIFA要人一斉摘発で逮捕された、ジョゼ・マリア・マリン前会長の懐刀で、大会TV放映権、マーケティング契約に関する汚職疑惑でいつ逮捕されてもおかしくない状態にある。
FIFA汚職は米国のFBIが先頭に立って捜査しており、デル・ネーロ会長はマリン前会長がスイスで逮捕されたように、ブラジル国外に出たら逮捕の可能性があるため、今回のコパ・アメリカはもちろん、セレソンの国外での試合に同行していない。
そんな人物が最高責任者を務めるCBFという組織は、例えば、コパ・アメリカよりも、リオ五輪よりもずっと重要な9月のW杯予選、ホームゲームをアマゾンのマナウスで行うとしている。
ブラジル人選手でさえ慣れない当地の気候、ホームの利をみすみす捨てるのは「マナウス、クイアバなど、W杯時に僻地に立てたスタジアムはお金の無駄だった」との批判の声に対する言い訳、アリバイ作りのためだ。そこに「ブラジルサッカーにとって最良の選択」という哲学は存在しない。
また、以前は国のシンボルとも言うべき存在だったセレソンは、国民の支持を失って久しい。例えば、コパ・アメリカのハイチ戦、レストランのTV中継に見入る人は一人もおらず、ゴールシーンにも全く歓声は上がらなかった。
筆者はペルー戦敗北の後、日本から「暴動は起おきていない?」とのメールを受け取ったが、最初は何のことを言っているのか分からなかった。それほどまでに国民感情はセレソンに対して冷え切っている。
協会も頼りにならず、国民の支持も下がった状態で、〃現場監督〃一人が替わったところで、結果が出るかは未知数だ。下手をするとスケープゴートにされてしまう可能性まである。
チッチのスタイルは国民の求める〃ジョーゴ・ボニート〃(美しいサッカー)とは対極のものだ。コリンチャンスでも前線からの守備を徹底させ、カウンターとセットプレイに活路を見出すスタイルだった。
彼の任期中、コリンチャンスから代表入りした5人の内、4人は守備の選手(GK・カッシオ、DF・ジウ、フェリペ、ボランチ・エリーアス)だった事からもそれはみて取れる。
ロシアW杯予選で出場権獲得圏どころかプレーオフにも届かない今は、ノスタルジーを捨て、結果最優先で行くしかない。
頼みの綱のチッチを招聘した以上、招集メンバー決定にも全権をゆだね、仕事をしやすい環境を整える事がCBFの仕事だ。ブラジル国民が「負けてしまえば良い」「一度W杯予選落ちしないと目が覚めない」などと自虐的に語り、他国からも「今が倒し頃」と侮られる状況は、ブラジルだけの問題ではなく、世界サッカー界全体にとっての損失だ。
憎らしいほど強く、ライバル国も賞賛せざるを得なかったセレソンの復権まで、猶予期間は長くはない。 (規)
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