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多国籍LED企業の巴国進出=英EU離脱の及ぼす悪影響=二国間通商交渉の時代へ=パラグァイ 坂本邦雄

英EU離脱でメルコスールはどうなるのか(21 de dezembro de 2015, Foto: Roberto Stuckert Filho/PR)

英EU離脱でメルコスールはどうなるのか(21 de dezembro de 2015, Foto: Roberto Stuckert Filho/PR)

 日本の青色・白色発光ダイオードの研究がノーベル物理学賞に輝き、世界的に生活や環境面からその重要度が注目されているのは今や広く知られている。
 この度は、EUROLUCE・グループ(本社=オーストラリア)のパラグァイ支社PARALITE㈱が、シルヴィオ・ペッチロッシ国際空港に近いルケ市の「アメリカ物流パーク・Parque Logistico America」内に初期出資500万ドルをもって、LED・発光ダイオード照明器具の生産に乗り出した。
 マキーラ産業制度(仲介加工貿易振興法)の優遇処置の魅力に惹かれてパラグァイに進出して来た同社は、約一カ月後には工場の稼動を開始する。
 同社のウォルター・グウィン氏によれば、最初の稼働率は50%を見込んでいるが、一年後には関連金属工業などとの産業クラスター(チェーン)の提携で予定の生産能力を発揮できると言う。
 同氏は、「およそ一カ月後には生産能力の一部を充たせる予定で、そのブランドはLumini印と称し、現在ブラジル市場の67%のシェアを誇る製品である」、と語った。
 なお、同社の事業範囲は単に照明器具の生産に限らず、ホテルやマンションなどの大型建築工事の照明設計にも及ぶものである由である。
 LED発光ダイオードは、既に未来の産業ではなく正に脚光を浴びている現在の技術だと看做されている。
 その特性は生態性光熱の優れた省エネ性で、自然環境にも負担を掛けない優しさにある。
 ゆえに今後5年間に発光ダイオードは、照明産業を制覇するものと予想され、多国籍大企業は同情勢を敏感に意識し、その開発を競っている。

伯50社が巴国に上陸

 そして、その主な市場は、マキーラ産業制度によったブラジルへの輸出を目指しているが、将来は徐々にアルゼンチンや中米諸国の他にヨーロッパ市場の開発も目論んでいる。
 なお、事業計画では年商600万ドルが予想され、1年後にはその倍増が期待される。グウィン氏は、製造目標の第一次段階の3200品目の中、1200の各種製品を生産する計画だと言う。
 一方、従業員の雇用は当初30人から60人位を予定しているが、1年後には順次100人の工員数を必要とする。
 従業員養成のために、既に本社へ3人の要員が研修に派遣されている。
 パラグァイ政府のグスタボ・レイテ商工相は、外国企業がなぜ好んでパラグァイ進出を目指すかの主な理由は、我が国の好経済情勢による競争力が大きなインセンティブになっている為だと語り、「現在50社にも及ぶブラジル企業がパラグァイに進出しているが、例えば中国にあったブラジルのオモチャの生産会社が、我が国に移転して来た事実を見ればその理由が良く解るものだ」、と付言した。

英EU離脱による影響

 この様にパラグァイは好調な経済動向を見せる中、予想はされていた事だが、最近のイギリスのEU(欧州連合)からの離脱(Brexit)の影響は、世界の金融市場に衝撃を与え、巴国にも大なり小なり、その波及はありうる。他に、EUと南米南部共同市場(メルコスール)との順調な通商条約の交渉をも危ぶませるものである。
 パラグァイ中央銀行のカルロス・カルヴァリョ理事は、「短期的にはマクロ経済の備えが良くない国々は、とりあえず、かなりの混乱を起こすかも知れないが、我が国ではその打撃は僅少に済むと思われる」と話した。
 「しかし、Brexit、即ち英国のEU離脱は中期的にはメルコスールとEU連合の貿易交渉の不確実性を招くであろう。なぜならば、英国とEUそれぞれの経済事情や利害問題が異なる下での交渉は、自ずとヨーロッパ連合のこれまでの開放的だった外交政策をなお閉鎖的な方策への転向を余儀なくするからである」と付言した。
 他方、エラディオ・ロイサガ外相はメルコスールにとって、常にEUとのブロック間の通商条約を弁護・支援したイギリスの今回のEU離脱は大きな損失だと評した。「英国のEU離脱で、メルコスールは戦略的パートナーを失った。我が政府はこの惜しむべき損失を遺憾とするものである」と語った。
 一方、サンティアゴ・ペニャ蔵相は、「英国のBrexit問題は、既に見た通り、世界為替市場で早速ポンドの下落や株式市場の崩壊を来たした。その影響で、主な金融センターでロンドンの銀行界の如く株式株価が失墜している¥とコメントした。パラグァイに対するインパクトについては、「EUとの特恵関税の扱いに浴している我が国ではあるが、英のEU離脱で、今後は英国と二国間で通商交渉を進める事になる」との説明である。
 つまり、パラグァイはEUと特定の関税優遇措置を取決めているが、この度の「Brexit現象」で、巴英両国は別に二国間当該協定を結ぶ必要性が生じた訳である。
 このような次第で、英国との貿易は迅速性を失い、かつコストも高くつく結果になるが、遺憾ながらこれは英国の有権者の決断によるもので、致し方ないとペニャ蔵相は述べた。
 そして、「Brexit現象」はパラグァイのみならず、我が国に進出した各企業本国にも大同小異の衝撃を及ぼすのは当然で、その短長期的な経済界への影響は如何に推移し、どの様な落ち着きを見せるかは当面の少なからぬ関心事である。