地元モジ市の篤志家である堀井文夫氏、柴田グループの特大寄付によって実現したモジ・ダス・クルーゼス西本願寺(清水円了主管、門徒家族約350)の移転工事。旧寺院の老朽化で13年前から持ち上がっていた移転話だが、ついに新寺が完成し、落慶法要が6月26日午前9時半から行われた。西本願寺派の地方寺院としては最大規模で、同市市長やサンパウロ市の日系団体代表者、また日系および非日系議員、そしてトメ・アスーなど遠方からも門徒が参集。約1300人が新寺の落成を盛大に祝った。
朝9時半に開会の花火が打ち上げられた。司会は芸能プロダクションの藤瀬圭子さんで、最初に華やかな衣装を着た児童約30人の稚児行列の練り歩きが行われ、風情をかもし出した。
今後、末永く聞法道場となる本堂の入り口でテープカットが行われ、2万2千平米の土地と本堂・納骨堂・庫裏などを寄付した堀井氏に対して、同夫妻の胸像が除幕された。
各団体代表者を中心に約400人が本堂に入ると、同寺護寺会の根岸健三会長のあいさつが始まり、同婦人会により仏前に献花・献灯された。
杣山哲英南米西本願寺総長の導師で読経が始まり、参加者は神妙な面持ちで焼香を行なった。
当落慶法要のため来伯した日本の西本願寺(京都市)・那須野浄英総務代行が法話で、「仏様は私たちの命を大事にしてくださる」と説き、教えを聞く場の完成に対して感謝の言葉を口にした。
本堂前の広場で祝いの餅が撒かれ、納骨堂の開所式では清水主管が導師を務め、僧侶らが読経を行った。
その後、参加者は会館に移動。1千人収容の会館を寄付した柴田グループを称える記念プレートが除幕され、同寺護寺会の長友契蔵会計が謝辞を述べた。
記念式典では那須野総務代行が、本山である西本願寺の第25代門主・大谷光淳師、および、前門主・大谷光真師の祝辞を代読。モジ市のマルコ・ベルタイオーリ市長も謝辞を述べ、鏡割りとケーキカットで祝った。
清水主管は「門徒の念願だった新寺が、堀井さんと柴田さんのおかげで立派に出来上がった。皆が喜んでくれる寺にしていきたい」と意気込みを語った。
続く芸能ショーでは、サンパウロ市ミカ幼稚園の卒園生による和太鼓をはじめ、日本舞踊、民謡、阿波踊りで多いに盛り上がった。
今回、本堂のふすまと内陣には、西本願寺の開教使で画家の久保光雲師が、約10カ月をかけて極楽浄土の絵を描いた。広島市から来伯した母の久保弘子さん(73)は、「娘は素晴らしいお寺に絵を描かせてもらった。多くの人が絵を気に入ってくれて、本当に嬉しい」と笑顔を見せた。
56年間、毎朝お経を読んでいるという同寺婦人会の高垣鯛さん(77、二世)は、「30年前に亡くなった舅に仏教の大切さを教えてもらった。この立派なお寺を見せてあげたい」と溢れる涙を拭った。
新モジ本願寺を完成させた篤志家たち
今回の落慶法要は、堀井文夫氏と柴田グループの大規模な寄付なしでは実現し得なかった。
堀井文夫氏は1933年に広島県で生まれ、3歳で家族とともに渡伯。最初はサンパウロ州リベイロン・プレットの農場に配耕され、15年後、モジ市郊外に農場を購入し独立した。
農場内で偶然鉱物資源「カオリン」を発見し、事業を拡大。現在ゴルフ場やホテルなどを擁する複合施設「パラダイス」を経営する。
親や先祖を大切に思う気持ちと、生後5カ月で亡くした愛娘を供養するため、モジ・ダス・クルーゼス本願寺に敷地・本堂・納骨堂・庫裏などを寄付した。
祝賀会で感謝状を受け取った堀井氏は「寺院の窮状を聞き、家内とも相談してお手伝いをさせていただいた。柴田さんも協力してくれ、新寺が出来たことを喜んでいる」と謙虚に語った。
グループ柴田の歴史は亡父・正之助さんの渡伯から始まる。山口県萩の出身で、弱冠12歳でブラジルへ。最初はパウリスタ線ガリア市に配耕された。
この地で生涯の伴侶・君枝さんと出会い、結婚。53年、モジ市近郊に一家で移住。養鶏業を皮切りに、76年、長男のジョンさんと次男のアントニオさんが、兄弟で小さな食料品店を始め、開店当初から繁盛した。
84年に正之助さんが69歳で他界。君枝さんを中心に一家で事業を盛り上げ、現在は10都市に18店舗のスーパーマーケットを運営している。
社会貢献を大事にする柴田家は、同寺が会館施設を必要としていることを聞き快諾、1千人収容の大会館を寄付した。
「祝辞」 浄土真宗本願寺派 第25代門主 大谷光淳
このたび、南米開教区モジ・ダス・クルーゼス本願寺教会の寺基移転ならびに本堂・諸堂落慶の慶讃法要が厳修されますこと、心よりお慶び申し上げます。また、1950年創立以来、今日までお念仏のみ教えを受け継ぎ、モジ・ダス・クルーゼス本願寺教会の護持発展にご尽力いただいた歴代主管や有縁の皆様方に深く敬意を表し、感謝申し上げたいと思います。
私たちは物事を自分にとって都合がよいように理解し、常に自己中心的なあり方から離れることのできない存在であり、それは阿弥陀さまに出遭って明らかになった私の本当の姿です。阿弥陀さまはこのような私たちを救いの目当てとしてご本願を建立され、その智慧と慈悲のすべてを南無阿弥陀仏の名号として成就されました。
親鸞聖人が顕かにされた浄土真宗のみ教えを依りどころとする私たちは、愚かな存在である自身の身を嘆きながらも、阿弥陀さまのお慈悲に包まれたよろこびの中で、力強く人生を歩むことができるのです。
このたびの落慶法要を機縁として、モジ・ダス・クルーゼス本願寺教会有縁の皆様方には、み教えがより多くの方々に伝わるよう、一層の充実した幅広い活動を展開されますことを念願いたします。(落慶法要パンフレットより)
「祝辞」 南米浄土真宗本願寺派 総長 杣山哲英
この度、長年の懸案でしたモジ・ダス・クルーゼス本願寺の寺基を移転され、本堂をはじめ諸堂の建立が、景勝の地に見事に出来上がりましたこと謹んでお祝い申し上げます。
この度の慶事は堀井文夫氏の絶大なるご援助と地元門信徒・役員のご努力、そして主管の清水円了開教使の寝食を忘れた奔走によって完成されたものと伺っています。
21世紀は宗教の世紀と言われながら宗教に名を借りた紛争が世界各地で起こり、またブラジル国内にあっては個人の利益のみを追求する似非宗教が隆興するなど、真の意味での宗教はむしろ衰退の一途を辿っています。
こうした中で、真の宗教の施設がモジ・ダス・クルーゼスに落慶し、浄土真宗のみ教えを高らかに謳い掲げられましたことは誠に心強いものがあります。
今後はこの宗教施設が一人モジ・ダス・クルーゼス門信徒だけのものではなく、南米教団の聞法道場(もんぽうどうじょう)として、いや、広くブラジルにおける一大宗教施設として機能されますよう、門信徒の皆さまの益々のご活躍を念願いたしましてお祝辞とさせていただきます。