アリアンサ 新津 稚鴎
土手すべり落ちしは太き穴まどい
棉摘み賃ピンガ呑むなと払いやる
曳いて来し蜘蛛置いて穴掘る地蜂
蟇を呑む蛇の口元蠅たかり
露寒し削がれし耳の又疼く
木菟鳴くや酒気なければ物不言ず
【いかがおわすか百才男になられた作者】
北海道・旭川市 両瀬 辰江
捨て難き昭和の衣服夏帽子
明け早し寝なおす室を眺めおり
夏の花束ねなほして御内仏
針持つ手休めて空の虹を見る
逃げ水を追ひやけ行けば大雪山立てり
【私もなんとか年相応の毎日を頂いて居ります。暑かったり寒くなったり気候に左右され今年も半年を迎えています。過ぎしブラジルを想ひ居ります】
プ・プルデンテ 野村いさを
ボーロ切る児等の歓声春隣
八百の寄贈書分類暮れ易し
冬うらら編棒を手にバスを待つ
降るように見えねど寒雷又一つ
贈られし酒熱燗でしみじみと
【野村さんはコロニアの出版物を八百冊持って居られたが、この度、サンパウロの文協が全部を引き受けてくれることになったと大よろこびして居られた。私も念腹句集二冊をもらった】
サンジョゼドスカンポス 大月 春水
宵の秋人待ちて佇ちつくす
あの頃は若かりしとアルバムをくる
秋空に寒冷前線ひかえ目に
久活を叙す娘の掌の暖き
鳥居の奥の広き秋の園
グァタパラ 田中 独行
冬バラの赤きが散るを惜しむかに
切られまじ鋭きトゲや冬のバラ
潅水の池の掃除や水涸れて
水涸れてポンプ封印農きびし
冬めきて風呂焚くことに焚木取る
ソロカバ 前田 昌弘
倒れ伏すバッソリンニャ花を付け
狐火に怯える犬でありしかな
ここに巣ありの立て札にのり穴梟
凍雲となりて止どまる飛行雲
冬枯れの園に数本常緑樹
ボツポランガ 青木 駿浪
雲流れ風も流れて冬の景
初霜や一夜に明けて薄化粧
楚々と咲く庭の小鉢の返り花
凍星のまたたく夜空澄みにけり
やすらぎの心にホ句や冬の月
サンパウロ 湯田南山子
研ぎ上げし刃の如き冬の滝
高原の町に住みなれ冬になれ
霜の夜のシャワーは侘し風呂恋し
スモッグの底に呻吟する大都
短日や書斎ごもりも飽きの来し
カンポスドジョルドン 鈴木 静林
柿祭り外孫二人太鼓打ち
ブラジルにもよき菌有り茸狩り
山に遊び山の土産の木の実色々
形よき木の実そろえて首飾り
暮の秋山で木樵りの斧の音
ジョインヴィーレ 筒井あつし
清楚なる民族衣装秋祭
アコーディオン奏でるガウショ秋祭
ドイツ人ワインで祝ふ秋祭
チラデンテス国は汚職で揺れ動く
雲一点なき明けの空冬隣る
ピラール・ド・スール 寺尾 貞亮
小鳥さん家にも残せよ熟れマモン
薬掘る根は前立に良く規矩と
りんりんと虫泣き細く秋の夕
新豆腐週に二三丁食べにけり
良書読む心は楽し秋燈下
サンパウロ 鬼木 順子
何も彼も覆い隠して冬の霧
そのままに落花悲しや寒椿
姿良き盆栽松笠冬の庭
良く出来た自慢のキムチ寒夕餉
巣立つ子を抱きしめ祝う冬うらら
サンパウロ 寺田 雪恵
日を置かずイペー散らして冬の雨
かくれ家にポツンと眠る冬の酒
紫蘇の実のつくだ煮旨し冬の夜
地下水の流れの先にメダカ住む
緑の葉ゆらしつつ蟻の冬の列
スザノ 織田真由美
流れゆく水のひびきに秋の声
雨去って風の若きに秋の声
生き甲斐の貴きする日々の秋思かな
りんごむきかじる晧歯を眩しめり
草じらみとりつつ風呂を焚きし日よ
いささかの揺れ受け止める返り花
サンパウロ 武田 知子
プリンスの握手の温みじんわりと
喜怒哀楽するりと抜けて春惜しむ
今生の端にまだ居て星涼し
別れにし影追ふ心イペー散る
雨風の去り行く果に虹立てり
サンパウロ 児玉 和代
惜春や不通電話の一と日暮れ
来ぬ人を待つ晩春の雨一と日
春雨と云ふにおぞまし黒き雲
手入れせぬ狭庭に蘭の春深し
麗かや伸びない腕の美容体操
サンパウロ 馬場 照子
成せば成る弓場八十年風光る
タンポポや花に名のある事児等に
春うららほら笛吹けば和す犬等
子育ての疲れも見せず庭サビア
サンパウロ 西谷 律子
母に会ふ心でありぬ墓参り
花すでにあふれておりぬ墓参る
この国に増えし血縁墓参る
油虫踏んだ感触足の裏
邦人の多き展墓や賑わいぬ
サンパウロ 西山ひろ子
彩飛ばし一つの色に風車
思ひつくままに話して展墓の日
売れ残る犬の眠りや春愁
春寒し暑しと今年あとわずか
朝昼の温差十度狂ふ春
サンパウロ 柳原 貞子
我に課す健康管理日記買ふ
幸せは息災にして納め句座
傘寿期し自己管理とて日記買ふ
老いて子に従う我の師走かな
過疎村に人の増えたる墓参の日
サンパウロ 川井 洋子
鳥帰る大地耕す移民の子
芹の茎水に挿し置く厨窓
春の雨日毎ゆっくり土ほぐす
とっぷりと暮れし日永の一と日かな
亀鳴くや入植記念の古写真
サンパウロ 原 はる江
旧耕地通れば茫々竹の秋
惚けてるを知らぬ哀しさ春は行く
春の雨なべて潤おし心をも
雨降りの花野と化した墓参り
やもめかずら空家の塀に咲き侘し
リベイロン・ピーレス 西川あけみ
耳うとく喧嘩の如く春の声
春愁や父のよわいを今生きて
春風や両手を広げて孫の来る
墓参り日本名多きモヂスザノ
みんな来て帰りて行ける春の月
サンパウロ 平間 浩二
降る雨や紫濃ゆきジャカランダ
春愁や年金詐欺の横行し
春愁やインフレきびし厨妻
春眠や目ざめてよりの深眠り
春暁のサビアの声にめざめけり
サンパウロ 太田 英夫
春雷に臍丸出しの妊婦かな
のぞき見た春の日傘は老小町
風船は親に持たせて眠る児かな
居候きめて二日目春の蠅
寒鰤や喰らいつきそな面がまえ
アチバイア 宮原 育子
端居夫後ろ姿に見る孤独
明易や電照の灯を消す時刻
明易やセアザの荷を積み終る
ポンプ小屋に下りる坂道草いきれ
一病を守り三十年歳は行く
アチバイア 吉田 繁
春寒し四季無き国に住み馴れて
抜き忘れ大根花に春が来た
山岳のインカの首も草萌えて
花イペーこの国に老い悔いもなし
童謡のどんぐり植える孫と爺
アチバイア 沢近 愛子
移り来て農の一歩の山を焼く
移民妻山焼仕事腹すえて
若き日は自給自足し木の実植う
父の日や色とりどりにカランコエ
邸内に見事咲かせて紅イペー
マイリポラン 池田 洋子
君が代を独立祭に歌う子等
独立祭苺まつりに人等群れ
野焼後戦の跡もかくありや
独立を祝ふ式典見つつ飲む
暖まる手だては一つ着ぶくれる