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南米の異端児ヴェネズエラ=パラグァイとブラジルが異議=メルコスール=輪番議長国就任に=アスンシオン在住 坂本邦雄

問題となっているヴェネズエラのマドゥーロ大統領(Foto: Ismael Francisco/Cubadebate)

問題となっているヴェネズエラのマドゥーロ大統領(Foto: Ismael Francisco/Cubadebate)

 南米南部共同市場(メルコスール)は加盟国国名の頭文字の(ABC)順に沿って輪番議長国の座を6カ月毎に持ち回りで交代する制度である。
 本来なら規定に従ってこの7月にウルグァイからヴェネズエラに議長国の席が引継がれるはずのところ、パラグァイとブラジルの反対で延び延びになっている事態が続いている。
 そもそも2006年来パラグァイ国会は、ヴェネズエラのメルコスール加盟を拒否し続けていたのだが、2012年6月にルーゴ大統領を弾劾裁判で罷免決議し更迭したのが祟って、メルコスールの〃民主条項〃に違反したとして、当時のブラジルやアルゼンチンの提唱でパラグァイは会員国の資格を停止され放逐された。
 このパラグァイの強制的な留守を利用して、ヴェネズエラは長年念願のメルコスール加入の夢を非定型的(アンティピカル)ながらも果した。
 しかし、メルコスール加盟には会員国全員の国会批准による議決を要する規約にも拘わらず、パラグァイの合意がなかったままのヴェネズエラの強引なメルコスール加入は、「裏窓を破って押入った」強盗行為の様なもので、後々までシコリを残す事になった。
 ちなみに、ヴェネズエラの次期輪番議長国の就任を決める外相級メルコスールの意思決定機関であるCMC(共同市場審議会)は7月30日(土)にウルグァイのモンテヴィデオ市で開催されたが、パラグァイは何れの政府代表者も出席させないむねを、エラディオ・ロイサガ外務大臣は前もって確認していた。
 このようにヴェネズエラの議長国選任の問題は、メルコスール加盟国間で苦い論争の的になっているのである。
 パラグァイがヴェネズエラに反対する主な理由は、現下のマドゥーロ政権下の政治、経済、治安の危機は正に憂うべき情勢にあり、人権問題でも100人以上の政治犯を不当に釈放せず、国民は最低限の日常必需品、医療医薬品、衛生用品の輸入も許されず、その物資欠乏生活は人道問題である―との考えからだ。
 なお、マドゥーロの独善的な為政は独裁とも言えるもので、これはメルコスールの機構主意に謳われる〃民主条項〃に反するもので、マドゥーロ政権下のベェネズエラは明らかにメルコスール加盟の失格国である。
 最近のマドゥーロ大統領に関する世論の傾向としては、好意的である筈のウルグァイの左派元大統領ドン・ぺぺ・ムヒカすら「マドゥーロには困ったものだ。少し頭がおかしくなったのでは」と呆れ、その良識が疑われているほどだ。
 同じくドン・ぺぺ政権下で外務大臣を務めた左派の現OAS(米州機構)のルイス・L・アルマグロ事務局長も、その職責より、ヴェネズエラ目下の政経危機を案じてその収拾・善後策を提案したところ、マドゥーロの「余計なお節介だ」とばかりの駄々っ子の様な反応で、手に負えない。
 従い、パラグァイの懸念は、そのように振幅の激しい〃情緒的安定性〃に欠けるマドゥーロのヴェネズエラに、メルコスールの輪番議長国の重責は任せられないし、また同国は自分自身の問題に忙しくて、そんな暇もないだろうと云った至極当たり前な一貫した判断によるものだ。

ヴェネズエラの加盟を後悔するブラジル

2015年12月21日のメルコスールおよび関係国会議に出席した南米各国の大統領ら(Foto: Roberto Stuckert Filho/PR)

2015年12月21日のメルコスールおよび関係国会議に出席した南米各国の大統領ら(Foto: Roberto Stuckert Filho/PR)

 ロイター通信の取材に応じたブラジルのジョセ・セーラ外相は、2012年にブラジルがヴェネズエラのメルコスールへの加盟を支援し、認めたのは大きな間違いだったと断じ、カラカス政府が正会員国の諸条件を完全に充たさない中は、輪番議長国になる事は許すべきでないと語った。
 外相ジョセ・セーラ氏と言えば、2018年の大統領総選挙戦に出馬が期待される有望な人物の一人であり、就任してここ2カ月の間にブラジルの外交政策の方針を明らかに改変し、左派PT(労働者党)の前政権が推進してきた左派地域の各政権との連携政策の乖離に大きく舵を切換えた。
 なお、同外相は書面によるインタービューにも答え、離職中のジウマ・ルセフ大統領と前任者のルイズ・イナシオ・ルーラ・ダ・シルバ大統領は我が国の国際的国益に反する交渉を行なったと云う。これは即ち、国際大衆迎合主義(ポピュリズム)と言うものだと、現在は連邦議会の罷免審議中で停職中のジウマ大統領の属するPTに触れて、弾劾裁判(インピーチメント)に至った原因の所在を問題にしたものである。
 ジョセ・セーラ外相の言によれば、ウルグァイ、アルゼンチン、ブラジルとパラグァイの通商及び関税同盟であるメルコスールに、ヴェネズエラの加盟を政略的に実現を謀ったのがジウマの失策だったと非難した。
 そのような新外相の考えから今回ブラジルは、パラグァイと共に、ヴェネズエラのメルコスール輪番議長国就任の延期を提言したものである。