10日間の旅を終えて、無事に帰国しました。トータルで1300キロも運転したせいか、途中で持病の腰痛が何度か再発しそうになりました。ですが、その度、景観の良いところで車を停めて、足腰のストレッチをして難を逃れました。
ギックリ腰の予兆がしても、腰に負担をかけない屈み方やしゃがみ方を実践しているので、昔のようにギックリ腰になってダウンせずに済んでいます。
腰痛予防には、筋肉を鍛えることよりも効率のよい「体の使い方」をトレーニングする方が、ずっと予防効果が高いと実感しています。
さて、今回のテーマは、「体を痛めない賢い歩き方」です。
【猿人に逆戻りする人たち】
人類は、長い年月をかけて直立二足歩行を獲得しましたが、現代人の歩き方は猫背になっていて、再び猿人に逆戻りしつつあります。
しかしながら、二足歩行は非常に複雑なメカニズムによって達成されているため、脚の一部に機能的な問題があったり、「いい加減な歩き方」をしていたりすると、途端にフォームが崩れてしまうのです。
座りっぱなしの生活を送っている現代人は、年を重ねるほどに、子供の頃にできていた自然な動作が出来なくなっているのですが、特に歩き方の「質」が顕著に低下しています。
街で歩いている人たちを観察すると、理想的なフォームで歩いている人が滅多におらず、頭が垂れ下がったトボトボ歩きになっています。
近年では、背中が「くの字」に丸まって歩くお年寄りを見かけなくなりましたが、反対に、老人のように歩く若者が急増しています。歩行の「土台」となる「姿勢」が悪い事と、「賢い歩き方」を教わっていない事が原因です。
【歩き方でわかること】
歩き方には、その人の性格から体調、気分、教養、品性まで、様々なことが反映されます。「賢い人は、賢い歩き方をしている」と言っても過言ではないでしょう。歩き方だけで、見られ方と印象が大きく変わってしまうのです。
歩くフォームの良し悪しは、見た目の問題だけでなく、悪いと膝痛や腰痛を悪化させる原因になります。膝痛や腰痛を患っている人たちの歩き方には、4つの共通点があります。
①前のめりでヘソより頭が先に出ている
②視線が下がっている
③手を振らない
④小股
とくに①と③は要注意です。
これら4つの事を意識しながら歩くだけで、歩行フォームが改善されて、気分と体調が上向きになるのです。
私が診てきた患者さんたちも、視線を水平に保ち、腕を大きく振って歩くように心掛けただけで、慢性の腰痛が飛躍底に改善した例が沢山あります。
【乳幼児とアフリカの女性がお手本】
歩き方のお手本は、乳幼児とアフリカの女性です。乳幼児が歩く姿を観察すると、背筋が真っ直ぐに伸びていて、頭部が上半身の真上に位置しているのが分かります。
そして、歩いている時も決して前のめりになったり、猫背になったりはしません。大人と比べて身体能力は低くても、コア(腹部)がしっかりと働いて、体幹を安定させているからです。
アフリカの女性たちが、バケツや壺を頭頂に載せて歩く姿を見ても、乳幼児と同様の姿勢で歩いています。彼女たちのように、大人になっても子供の頃の動作パターンを保っている人種は、極めて稀です。「アフリカに腰痛はない」という話にもうなずけます。
【賢い歩き方には沢山のメリット】
長い年月をかけて身についた歩き方の癖を変えるには、少々時間と忍耐を要しますが、効率的な歩行フォーム=賢い歩き方は、「見た目年齢」を大幅に下げて、若々しい印象を醸し出します。胸を拡げて堂々と歩く姿をみれば、誰が見ても自信があるように映るはずです。
そして、賢い歩き方は疲労を最小限におさえて、膝痛、腰痛を遠ざけてくれます。歩くスピードと安定感も明らかに増すので、是非とも、以下のポイントを意識しながら歩いてみて下さい。
<1>ヘソを前に押し出すイメージで歩く(上体が起きる)
<2>軽くアゴを引いて視線を真正面に固定する(背筋が伸びて体幹が安定する)
<3>踵から接地するようなイメージで歩く(歩幅が大きくなる)
<4>腕を大きく振って大らかに歩く(下半身と上半身の過度なねじれを防ぐ)
<5>頭に本を載せているイメージで歩く(頭が上半身の真上に位置する)
【プロフィール】
伊藤和磨(いとうかずま)1976年7月11日生まれ 東京都出身
メ ディカルトレーナー。米国C.H.E.K institute 公認practitioner。2002年に「腰痛改善スタジオMaro’s」を開業。『腰痛はアタマで治す』(集英社)、『アゴを引けば体が変わる』 (光文社)など14冊を出版している。「生涯、腰痛にならない姿勢と体の使い方」を企業や学校などで講演している。