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ニッケイ俳壇(900)=星野瞳 選

   アリアンサ         新津 稚鴎

夕立の止みたる鰐の沼匂ふ
汝逝きてわが春愁のやり場なし
天の川潤みみかんの花匂ふ
春寒くわれを見つめて埴輪の眼
早春の深き緑のダムの水

【作者は移民ではなく、たった一人で来てアリアンサに大植民地を作り上げた。他には一人も無い人である】

   プ・プルデンテ       野村いさを

春隣みんなセルラル持っている
赤いベベ来て老人ジュニナ祭
エロゾンにえぐられし野や牧枯るる
神の旗立て賑わいしボテコかな
一杯が二杯となりしおでんかな

サンジョゼドスカンポス   大月 春水

冬ざれやシャワーに老斑除れもせず
年金を貰う日ずけに記しして
寒むそうに鳥二三羽虎落笛
残り陽もすくなくなりし日ぐれどき
長靴下をくれし女亡く冬は来る

   ペレイラ・バレット     保田 渡南

牧枯れて牛なき起伏哀しかり
臥牛の起きしぶりあり牧枯るる
抱擁の背を叩けば冬ぬくし
夜学子の父なき故にかしこけれ
汚職劇世界に見せて夜半の秋

   サンパウロ         湯田南山子

暖冬を願うは老いの愚痴なるや
白菜の芯に輝く黄金の色
植付けの催促角出す芋の種
炭焼きの父の期待に卆業す

   ソロカバ          住谷ひさお

冬なかば梅雨のごとしに降り続く
朶りて尚色濃ゆくクアレズマ
雑炊や思えば今日は冬至なる
笠戸丸より百八年目イペー咲く
寒波急鉢のエピッシャ枯れにけり

   イタチーバ         森西 茂行

雨降りに蛙喜び合唱す
青嵐台風となり豪雨となる
夕焼や明日も天気と判断し
水菓子の王者西瓜は年中あり
夕焼で小鳥が吾が巣に戻り行く

   ピラールドスール      寺尾 貞亮

暖寒に備え父母へ考する子を持てり
三枚の毛布に潜り床につく
新鮮に誘われ買いししめ鰯
新米の玄米飯にゴマ添えて
冬の鷺岸辺に立ちて魚待つ

   サンパウロ         岡野  隆

桜の花風に舞ひ散り花吹雪
恋人の日我が青村をなつかしむ
椿の花水につかりて赤く咲く
さるすべり唯見ぬ庭に咲き乱れ
蘭の花散り忘れたよに咲き続き

   ソロカバ          前田 昌弘

冬うらら回転ドアに入りそびれ
蔓サンジョンジツピ工場の柵を這う
冬休み園児の遊具に群れ小鳥
鯉眠る池の辺りや寒桜
寒緋桜大工場の遊休地

   グァタパラ         田中 独行

やわらかく美味しかったと上げ蕪
特産の蕪良く売れて村祭
今日冬至地平に五時半暮れ初めし
冬至風呂今年の柚子はすでに無く
月村に大きく残る冬至かな

   サンパウロ         鬼木 順子

もみ解す手の冷たさや実技室
寒の風幼い枇杷の実落とし居る
冬の霧服着せられた犬走る
着膨れて見上げる空に月冴ゆる
青笹や葉擦れ音して寒雀

   サンパウロ         寺田 雪恵

叱られて泣く声運ぶ秋の風
濃いうすいと云ひつつ甘酒囲む友
干し柿も干し栗の甘さも里山の味
甘酒に生姜たっぷり風邪ひかず
乱世にまどわされいて秋寒し

   ピエダーデ         小村 広江

冬うらら頼られている頼る身が
冬枯れやそれぞれの影細りゆく
晩年の小さな倖せ木藷汁
夕凪や梅花しきりに散り急ぐ
誕生日曽孫は二才チャンチャンコ

   ヴィネード         栗山みき枝

時計草みのりとならず皆しぼみ
あん餅に緑茶の至福お茶時間
建てかけの隣家そのまま幾余年
冬隣り古木の裸木ひょろひょろと
庭先の赤ランテイナに蜂すずめ

   サンパウロ         小斉 棹子

アスファルト敷きうめて行く花時雨
この国に紡ぎし家族根深汁
湖の茜の中の浮寝鳥
霜晴やハウスの花に風の径
こみ上げて来る思ひあり桜花

   サンパウロ         武田 知子

白寿てう齢真近や帰の小春
せめてもと輪島の椀に根深汁
先づおでん序でメニューに眼を通し
行く末を思ひめぐらし春待てり
被爆の身癒やす移住に寒波射す

   サンパウロ         児玉 和代

青白き寒灯文面乱れなき
愛猫を獣医に託す夜の凍つる
日向ぼこ何にも想はず眼閉づ
冬晴や半裸の歩く二十五度
冬晴れの白雲ビルに触れんとす

   サンパウロ         西谷 律子

フェジョンと肉と根深汁移民
ポルキロの無料サービス根深汁
小春日の部屋にはじける笑ひ声
郷愁をそそる香りや根深汁
根深汁五臓六腑に染み渡る

   サンパウロ         西山ひろ子

日本へ繋ぐ一票冬ぬくし
一票を投じて心小春かな
先生の握手の力赤き薔薇
湿っぽく乾くタオルや冬の空
取り立ての葱の香りやうどん食ぶ

   サンパウロ         馬場 照子

振り向かすま白の梅小夜時雨
千の毬ころがす風情イペーロッショ
寒鰤の薄情そうなその目玉
霜けしや未知の農作我武者羅に
霜害の無気味にたれるバナナの葉

   サンパウロ         川井 洋子

長生きの励みは俳句冬紅葉
今日もまた何もなく過ぎ根深汁
空咳のつづく毎日冬旱
老いて尚願ふことあり星祭
冬耕や庭の一と隅老いの畑

   サンパウロ         岩﨑るりか

キラキラと水晶村の霜柱
友待ちの時雨る駅もたのしかり
杖つきて医者がよいの娘春を待つ
根深汁祖母の思い出あたたかき
猫だきて湯たんぽがわり高いびき

   リベイロン・ピーレス    西川あけみ

根深汁夫の椀には葱は無し
時雨来て出掛けためらう老い二人
齢来て春待つ心強くなり
四温晴れ五輪入場券届きたる
湯豆腐にとろろ昆布の一とつまみ

   サンパウロ         柳原 貞子

矍鑠たる老僧バイクで移民の日
少年の声変わりして冬休み
マスクして耐えてる風邪や厨事
自由とは孤独と同居冬ごもり
ふと浮ぶ母の笑顔や干葉吊る

   サンパウロ         坂野不二子

子等行きて音止みし午後時雨かな
追い打ちをかけるが如く時雨かな
食卓に根深汁あり昨日も今日も
冬日射し口もとわずか綻びる
窓辺にて春を待つのは猫とわれ

   サンパウロ         新井 知里

日向ぼこ二時間気にせぬ身となりぬ
寒波来るドミノのように早々と
冬晴や日本語習うと初孫に
冬ぬくし庭での読書終わらずに

   サンパウロ         竹田 照子

冬日和老いても強く今日生きる
日本祭七夕もありあでやかに
フラメンゴバレー踊りし人恋し
をさむらいてふ結ぶ髪型流行り出し
異国人手巻上手に食すすめ

   サンパウロ         玉田千代美

命まだ明日へあずけて冬ごもり
腕組みの深きも寒さ加わりて
人情の厚き友居て寒見舞
悼む人多き日毎の冬月夜
ためらわず夫の残した冬着着て

   サンパウロ         山田かおる

冬の葬イッペロッショの毬が散る
小春日和友は米寿の宴の中
寒木瓜の咲いてうれしい冬日和
つらき夜長目覚めることの二度三度
小春日に白寿賞授賞斉藤翁

   サンパウロ         原 はる江

時雨るる日友の葬儀を見送りぬ
父母を知る者なく淋し移民の日
禁酒され父のすすりし根深汁
寒続き老はひたすら春を待つ
師の祝い喜びほらげ八重桜

   サンパウロ         西森ゆりえ

寒桜師の祝ぐ句座に凛とあり
春待つや家族の増える日も近く
子や嫁と暮らす気はなく根深汁
冬の雲遠くに住めば親を恋ふ
五輪会意気上がらず寒き日の続く

   サンパウロ         大塩 祐二

ほこほこと身ほぐし呉るる日向ぼこ
横ならび思いそれぞえ日向ぼこ
寒暖も素直に受けて冬の日々
夜も更けて時雨るる音もうそ寒し
寒さ避け風呂たく灰で芋を焼く

   サンパウロ         大塩 佳子

夕餉には手羽先入れて根深汁
遠い日の谷間の村の夕時雨
五人の孫皆吾の背越し春を待つ
もったいないは何かと孫問う冬厨
「もったいない」使いきること鮭一尾

   サンパウロ         平間 浩二

土産の赤味噌の味根深汁
今日も又家族そろって根深汁
待春や笑顔ほころぶ深き皺
寒続きラジオ体操はげむ朝
しぐるるや晩鐘の余韻街静か

   サンパウロ         太田 英夫

今日また一つ覚えの根深汁
母の日やいよいよ薄き父の影
ほめ言葉待つか女房の根深汁
日向ぼこ話相手は今も猫
移民の日子に手を引かれ寺参り

   マナウス          東  比呂

農民の出稼ぎふえし山眠る
アマゾンの河ふくらみて山眠る
赤と青競う周政牛祭

   マナウス          東 マサエ

ゴヤバ熟る小鳥に又も先越され

   マナウス          宿利 嵐舟

雄々しくもたてがみ狼月に吼ゆ
風神の調べ激しや虎落笛

   マナウス          河原 タカ

熊らしき歩を止め見入る山眠る
同窓会寒緋桜に集う友

   マナウス          山口 くに

河波を子守歌とし眠る山
ボイブンバ衣装に埋もれる幼子か
フェイジョアーダ八十路の我にはちと重し

   マナウス          橋本美代子

火を吹いた記憶遥か山眠る
さきかけて寒緋桜の初便り
流木の流れ着く浜虎落笛

   マナウス          丸岡すみ子

眠れぬ夜昔思えば虎落笛

   マナウス          村上すみえ

眠る山起こして進む観光船
減水期ネグロ大橋高くなり

   マナウス          渋谷  雅

村淋し人無き耕地山眠る
開拓地跡継ぐ子無く山眠る
ボイブンバ三日三晩の響宴祭
一人居の肌寒き夜の虎落笛
世は移り二三世ばかりの移民祭

   パリンチンス        戸口 久子

入植地モンテアレグレ山眠る
入植地捨てて皆逝き山眠る
不景気は何処吹く風牛祭