実に美しい五輪開会式だった――あの光景を「世界の30億人がテレビ鑑賞、欧米メディアは絶賛した」とブラジルメディアは自賛している。やはり、ブラジル人はフェスタ上手だと痛感する。インディオが自然と共存することを、上から垂らした光る綱を、美しく綾なす形で表現する場面など幻想的の一言だ▼さらに夜8時過ぎになんと日本移民を表す一団が表れたのには特に驚いた。あれは演出責任者の映画監督フェルナンド・メイレレスが、まさに同じ時刻(日本時間で6日午前8時15分)の広島原爆投下を顕彰する意図もあったと、7月5日NHKニュース電子版にあったのを見つけた。彼は最初、開会式で黙祷することを考えたが、「アメリカを批判することになりえる」との政治的な危険性を配慮され、結局はその企画は否定されたとも▼サッカー留学生、サ紙記者として滞伯経験を持つ異色埼玉県議・諸井真英さんは、フェイスブックに印象的な言葉を投稿した。《ブラジルの大地を創造~先住民の生活~ポルトガル人上陸~黒人奴隷連行~というブラジルの歴史の流れの中で、広島原爆投下時間に合わせて日本人移民についても表現していた。日本でこの移民の歴史は学校の歴史の授業ではほとんど取り上げられず、教えられることはない。だから多くの人が知らない。自分の国の歴史を、ポルトガル人の侵略や奴隷など光の部分だけではなく影の部分も事実として直視し表現するブラジル。自国の歴史を尊重せず、偏った歴史観のみ教え都合が悪いこと、同胞の歩んだ歴史を直視せず教えない日本。東京五輪はこのことをどう表現するのだろうか》。4年後の東京五輪開会式では、在日ブラジル人の日本社会への貢献は僅かでも表現されるのだろうか…▼さらに諸井さんは《日本選手団入場の際は歓声が他国より多いように聞こえた。これは、同胞の日本人移民の先輩たちがブラジル社会の中で日本人の特質、勤勉さ、真面目さで長年築いた信用、信頼の証であるということがこの開会式でも感じ取れて感無量だった》とも▼開会式では地球全体の環境問題が強調されていたが、国内を見回すと悲しい現実が山積みだ。例えばサマルコ社の鉱滓ダム決壊事故からちょうど9カ月だが、このブラジル史上最悪の環境汚染をもたらした人災は、今もってそのまま…▼入場を終えた選手が種を植える場面が繰り返し映された。BBCブラジル5日付電子版で、グアナバラ湾浄化計画の主導者の一人、生物学者マリオ・モスカテリ氏はその光景を《ただのマーケティング以上でも以下でもない》と一刀両断した。《選手の数1万2千個の苗が植えられたとしても、育つのは10%以下だ。植えるのは簡単、育てるのは大変。1年後に何本残っているか楽しみだ》と痛烈な皮肉を放った。「五輪までに湾に注ぐ下水の80%を処理浄化する」と州政府は公約したが、わずか51%(元々11%)に終わった現実を内側から知る人物だけに説得力がある。逆説的にいえば、美しく見せるのが上手であればあるほど、現実とはかけ離れる▼おもえば五輪誘致自体がPT政権の〃背伸び〃そのものだ。そのジウマ大統領(PT)の罷免審議開始が本日9日、上院本会議で決まる。過半数で可決されれば、大統領は容疑者から「被告」に変わる。〃民主主義の五輪〃(インピーチメント)における決勝戦(弾劾裁判)進出といえそうだ。でも〃金メダル〃(罷免)の日まで、戦いは予断を許さない。(深)