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「国の春ファベラ育ちの金メダル」

コルコバードの丘のキリスト像が見守るリオの町(Foto: Pedro Kirilos/Riotur)

コルコバードの丘のキリスト像が見守るリオの町(Foto: Pedro Kirilos/Riotur)

 《国の春ファベラ育ちの金メダル》―14日にサンパウロ市文協が主催した「全伯俳句大会」では、当日出される席題として「リオ五輪」と「春季一切」が出され、冒頭の様な句を詠んだ鈴木文子さんが1位になった。麻薬密売人がうようよするシダーデ・デ・デウス出身の乱暴者が、柔道との出会いによって「ブラジルの模範」に生まれ変わった。そんなラファエラ・シルバ選手の活躍を〃国の春〃と詠んだセンスに脱帽。これぞコロニア式の「五輪賛歌」、この句自体が金メダルといえる▼同点1位には《戦なき平和の祭典リオ五輪》を詠んだ平間浩二さん。工業移住者で、JICA職員としてリオに23年間も勤務した。五輪の地は思い出の場所でもある。「日本からお客さんが来るたび、200回以上もコルコバードのキリスト像に行きましたが、行くたびに感動するんですよ。雲が切れて、バッとリオの町が見える瞬間、何とも言えない壮大な景色が広がる。毎回表情が違うんですよ。行くなら雲が少ない午前ですよ」と薦める。現地に住んでいた人にしか分からない実感のこもった経験だ▼さらに「ポン・デ・アスーカルにも50回は行きました。こちらは逆に夕方が良い。あそこから見る夕暮れのリオの街並みが最高。まさに100万ドルの夜景です」とも。ただし、良いことばかりでもないのが、当地の現実。「ピストル強盗に20回以上にやられました。今こうやって生きているだけで運が良かった、としみじみ思います」。《平和の祭典》という言葉には、そうであって欲しいという祈願も込められている▼小斎棹子さんが特選にした《駅々に五輪ポスター春きざす》(森川玲子)はサンパウロ市らしい感じがする。逆にいえば、駅々のポスターとテレビの中にしか五輪がないのがサンパウロ市在住者の実感か。小斎さんは「明快な句。うまくいくかしらと心配したり、しなやかな肉体の祭典と感嘆したり、五輪に寄せる思いが伝わってきます」と評した。小斎さんが次点に選んだ《春愁や終に覚えずポルトゲース》(平間浩二)も共感が湧く一句▼その他、《五輪の春二つの祖国応援す》(森川玲子)、《リオ五輪日の丸揚がれば涙ぐみ》(西森ゆりえ)も移民らしい▼一方、兼題部門では「冬季一切」。《いつか死ぬ実感はなく日向ぼこ》(浅海喜世子)は、のどかな中にも深い精神的な営みが感じられる作品。《雑炊や二つの国の具の香り》(山岡秋雄)からは、嫁が作った雑炊にカラブレーザなど当地らしい具が入っていたのかと想像させる。「冬の鍋」といえば白菜やシラタキかと思いきや、《フェジョアーダの鍋を囲みて家族かな》(住谷ひさお)も面白い▼ソロカバから参加した前田昌弘さん(79、東京都)は、「全伯大会には1回だけ休んだが、残りは皆勤。パトロンが俳句やっていたのを見て僕も始めたから、もう50年。この大会が楽しみでね」とカフェを啜った▼今回第7回を迎える全伯俳句大会。分断したまま人数が減る一方の4俳句団体の現状を文協文芸委員会が憂い、「一緒に」と提案したのがきっかけ。「朝蔭」(佐藤念腹系統)、「蜂鳥」(富重かずま系統)、「ブラジル俳文学」(間島稲花水系統)と「子雷」(星野瞳系統)が合同で始めた。前回の参加者は50人ほどいたが、今回は40人を切った。かつて俳句大会といえば3、400人は当たり前の時代もあった▼最長老98歳の選者・星野さんは挨拶で「何とかして世に残る俳句を作りたい。この年だが、俳句が好きでたまらない」との情熱を吐露した。移民文芸の代表格である俳句だけに、これからも素晴らしい作品を期待したい。(深)