ホーム | 日系社会ニュース | 商議所=業種別部会長シンポ=「潮目に乗り遅れないで」=回復予測前倒しの業界も

商議所=業種別部会長シンポ=「潮目に乗り遅れないで」=回復予測前倒しの業界も

「ブラジルは今、変わり目」という松永愛一郎会頭

「ブラジルは今、変わり目」という松永愛一郎会頭

 「リオ五輪を高いレベルで運営をやり遂げ、ブラジルの底力を世界に発信した。ブラジルは今、潮目、変わり目と捉えている。乗り遅れないようこの機会にしっかり現状認識を」―25日午後、サンパウロ市内ホテルで開催されたブラジル日本商工会議所の総務・企画委員会(大久保敦委員長)主催の業種別部会長シンポで、松永愛一郎会頭はそう挨拶した。当日は過去最多の一般参加者25人を加え、200人以上が熱心に11部会による現状と今後半年間の予測に聞き入った。

補助椅子まで出す満員状況の会場

補助椅子まで出す満員状況の会場

 金融部会の井上秀司部会長は、マーケットはすでにジウマ罷免を織り込み済み、来週以降に出てくるであろう、より具体的な経済政策、痛みの伴う緊縮財政に注目しているという。今年のGDP成長率はマイナス3・20%、政策金利は年末までに13・75%に下降、インフレ率は7・31%、年末為替レートは3・30レアル(1ドル)という同部会の下期予測値を紹介した。
 《テーメル暫定政権が発足してからは、売られていたレアルも買い戻される等、同政権に対する期待感からマーケットは大きく回復。世界的低成長という環境下、ブラジルへの期待感や高金利を要因に、ひきつづき外貨流入が継続》とのコメントもあった。
 貿易部会の今井重利部会長は、今年の貿易収支は500億ドル超の黒字予想だが、大幅な輸入減が理由であり、輸出ですら前年比マイナスで、一概に喜べるものではないと総括。景況はすでに底打ち、上昇に転じたとの観測が増加しているが、「残念ながら日々の商売では実感しない。もう少し時間がかかる。でも欧州系、中国系がかなり動いている。要注意」との見方を示した。
 機械金属部会の池辺和博部会長は「明るい兆し見えない」と総括。鉄鋼分野では主要5社の高炉14基中5基が休止の状況。電力・社会インフラ分野では「経済停滞で電力余剰、設備投資先送り」の状況。建設機械分野では「ラヴァ・ジャット作戦関連で大手ゼネコンが公共事業へ参加中止、認可取り消し」。
 自動車部会の溝口功部会長は、上期の販売実績は前年比74%で4年連続前年同期割れ、販売店1473店が閉鎖し、間接雇用を含め12万4千人に悪影響。15年の全体の生産の落ち込みの78%が上位4大ブランド(フィアット、フォルクスワーゲン、シボレー、フォード)によるもので、日系メーカーはむしろシェアを拡大、健闘を見せている。トヨタは14年5・6%、15年6・9%、16年上期9%、ホンダも14年3・9%、6・0%、6・6%。
 ただし、韓国ヒュンダイも14年6・8%、8%、10・1%とその上を行く伸びを見せており、今年上期で4位に。5位のトヨタと共に従来BIG4の一角だったフォードを越え、アジア勢は業界大再編の原動力となっている。
 自動車市場回復の見通し予測に関し、同部会は2月のシンポで「2018年以降」としたが、今回は「2017年以降」と前倒しした。
 コンサルタント部会の西口阿弥部会長はGDP成長率に関し、今年のマイナス3・86%を底とし、来年17年からはプラス0・64%、18年1・71%、19年2・11%、2020年2・24%という明るい見方があると紹介した。
 電気電子部会の磯村恵次郎部会長は、事業環境は「どん底」、音響、携帯、白物家電など主要製品すべての需要が2、3割減と発表。「リセッション(不況)の出口に向けての準備をしっかりと進める時期」との現状認識を紹介した。
 化学品部会の中村博部会長は下期の見通しに関して、相変わらず不況による顧客の倒産・需要減が見込まれるが、「新製品・サービス」の対応策を打ち出す会員社が上期に比べて2倍の10社、「設備投資」も上期の1社から6社に激増しており、「光明が差してきた」と表現した。
 食品部会の藤江太郎部会長は、一部業界に明るい兆しがあることから「時折り晴れ間が見え隠れ」と表現。下期の展望として「近い将来の景気回復時の波に乗れるよう、事業基盤の強化、新たな事業の種まきなどの準備を進める」戦略を挙げた。
 運輸サービス部会の細谷浩司部会長は、引っ越し物流に関し「駐在員数は帰任者増・赴任者減と予測」、航空旅客業界では「昨年から日本へのデカセギ需要が徐々に増加」と紹介、経済回復期は「2018年」と予測した。
 建設不動産部会では、全伯の建設業界では軒並み30%~50%ダウンの中、リオのみ170%増。ゼネコン分野では、日系企業の大型工事発注減や工事先送りが多発、非日系顧客の取り込みが課題。その反面、サンパウロ市近郊の工業用地価格が平均20%も下降、「今が買い時か。でももっと下がる可能性も」とコメント。さらに「ラヴァ・ジャット作戦後、汚職構造が減り、純粋に技術力や納期厳守が評価される気運が高まる可能性がある」と述べた。
 繊維部会の南村幸彦部会長は、上期は「苦境の半年間、利益なき闘い」と総括。「本格的な回復は2017年以降、損失を最小限に食い止めて春を待つ」とした。
 中前隆博在聖総領事は講評として、「まだ苦しみの時期だが、いつ好転するかという明るい議論が中心になって来た。今ブラジルが進んでいるトンネルを抜けた先にには、より透明で公正なマーケットがあると期待したい」と述べ、五輪開会式に関しても「日本移民を登場させることを通して日本との関係を、30億テレビ視聴者、世界に誇って憚らないものがあることをブラジルは示してくれた」と高く評価した。
 大使館の小林和昭参事官は「9月以降、G20会議、BRICS会議などがあり、外交的にも重要な問題が立て続けに動いていく可能性がある。ブラジリアでは労働、税金、年金など前政権では不可触だった問題に取り組む機運が出てきた。次の大統領選のある2018年の前、来年までに何ができるかが現政権の勝負。日本政府もそのタイミングを活かして企業支援に力を入れて行く」と語った。