ジウマ大統領の弾劾裁判が進行中のその最中の28日、ジウマ氏を罷免に追い込みたい上院議員のひとりが、皮肉な歌を口ずさんだ。
ロベルト・カイアード上院議員(民主党・DEM)はこの日、ミシェル・テメル大統領代行らとの会議に出席したが、その帰り際にシコ・ブアルキの「アペザール・デ・ヴォセ」を口ずさんだが、これはジウマ大統領にとってかなりの挑発行為だった。
それはこの曲が、軍事政権時代の1970年にシコ・ブアルキが作り、軍政に反対する左翼の活動家たちにとっての「心の歌」として浸透していた曲だったからだ。
この曲の有名なサビの部分では「たとえ君がいようと、明日は今とは違う日になるさ」と歌われるが、その「君」とは大統領のことで、つまり、1970年当時に大統領だったメジシ大統領のことを指していた。ジウマ氏が政治活動家として軍政と戦って逮捕され、軍から拷問を受けた1971年も、このメジシ大統領の治世の頃だ。
シコが1970年から歌いはじめたこの曲は当初、軍の検閲にあって録音できない状態が続き、はじめて音源化されたのは検閲が緩みはじめた1978年と時間がかかった。だが、今日でも「ブラジルを代表するプロテスト・ソング」として非常に有名な曲だ。そのシコは1980年に、後に大統領となるルーラ氏が結党し、学生活動家や労働組合員が中心の左翼政党、労働者党(PT)の熱心な支持者となった。当初は別の左翼政党に所属していたジウマ氏も、後にPTに加わった。
その歌を、そもそもが軍事政権支持政党だった国家革新同盟(ARENA)をルーツとして持つDEMの有力政治家、カイアード氏に歌われたのだからこれは皮肉だ。さしずめ「ジウマが今いたとしても、明日には違う政権になっているから」と言わんばかりだ。
カイアード氏いわく、「かたや国民が苦しんでいた13年もの間、恩恵を得ていた人たち(PT)がいて、かたや、2億人の現実を生きるブラジル国民がいる」と語っている。今現在も、国民の間では「貧しい人たちの味方」とのイメージが強いPTだが、石油公社ペトロブラスでの巨額贈収賄計画に揺れた上に、過去最大級の不景気も重なって、下がっていたはずの失業率も急上昇中とあっては、厳しい局面に直面せざるを得ないのが現実だ。
なお、カイアード氏は弾劾裁判がはじまった25日も、ジウマ政権で官房長官をつとめたPTのグレイシ・ホフマン氏が「大統領弾劾を審理できるような倫理的な政治家はこの場にいない」と批判したのに対し、「もっとも私は、年金生活者から金をゆすり取るような真似はしないがね」と言い放ち、グレイシ氏の夫で、保健省での贈収賄計画に関与した容疑で逮捕された元保健相のパウロ・ベルナルド容疑者のことを皮肉って、議会内を大騒ぎさせたことでも有名になっている。
一方、ジウマ大統領が弾劾裁判で弁明を行った29日、シコはルーラ元大統領と隣りあわせで傍聴席に座り、質疑応答の行方を見守っていた。(28日付エポカネゴシオス・サイトより)
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