第5回目を迎えた今年のテーマは、『南大河州の日本人移民への顕彰』。1956年8月18日に、日本からの直来移民として23人の若者がサンパウロ市から南に1140キロ、大陸国家ブラジルの最南端にあるポルト・アレグレに根を下ろしてから、今年は60周年の節目を迎える。
8月18日はポルト・アレグレ市では「日本移民の日」に制定され、それを記念したこの日本祭りは、いまや州公式行事にまで認定されている。
戦後の直来移民を受け入れて支えたのは、1920年代に入植していた国内転住組だった。その一人が福家ゴイチさん。1929年に渡伯した福家さんは最初レジストロに入植したが、1930年代に同州サンタローザに土地を買って入植した。当時としてはごく珍しい転住先だ。
娘ケイコさん(二世、77)は、特別設置された移民資料館で当時の写真を見て、「当地では初期の移民だったから、父は多くのことを知っていた。寡黙な人だったけど、大事なときに口を開けば、皆が静かに耳を傾けていた。助け合うのは当たり前だと言って、よく人の世話をしていた」と懐かしそうに語る。戦後移民受け入れなど日系社会への貢献により79年に叙勲された。
ケイコさんは「父はどんな気持ちではるばる海を渡って、ブラジルで生きてきたのかと色々思うことがある」と感慨深げに語る。「自分に子供はいないけれど、次世代の若者には、日本文化をしっかり引継いで欲しい。日本はとても古い歴史があり、自然への感謝や、自立、助け合いの精神。どれをとっても大切なこと」と感じている。
また、一方で「ブラジルにも明るい国民性や他民族への寛容性など良いところが沢山ある。互いに尊敬しあい、両国の良い部分を日系人として引継いで欲しい」と期待した。
メイン舞台で日本舞踊を披露した田代クミコさん(82、鹿児島)は、58年にアフリカ丸で来伯し、南大河州に移ってきた戦後移民。渡伯前に習ってきた日本舞踊が、「好きで忘れられなかった」という。一緒に舞台へ上がった孫の吉本由美(三世、24)は、3歳からクミコさんに舞踊を教えられたという。
クミコさんは「孫と一緒の舞台に立てて、とても嬉しい。日本をよりよく理解しようと受け継いでくれる気持ちを持ってくれている。本当に幸せ」と満悦の笑みで語る。由美さんも「日本祭りで披露してから、日系の若者を中心にどんどん人が集まってきた。日本文化を伝え、保存していかなければ」と意気込みを見せ、「当地には日系人は少ない。同祭は日本文化に触れることのできる唯一の機会。私たちの踊りをぜひブラジル人に見て欲しい」と目を輝かせ、日系青年会「新星」の一員として、力強いソーラン節で会場を沸かせた。
視察に訪れたポルト・アレグレ領事事務所の近藤猛事務所長は、「ポルト・アレグレ市民にしっかり根付いている」と感触を語り、県連日本祭り実行委員長の市川利雄実行委員長も「文化紹介と展示、体験の均衡が取れており、かなり実力ある墨絵の作品もあった。食の広場では、若い客層に照準が置かれたものが販売されていて、かなり力のある日本祭りだと感じた」と賞賛した。(終わり、大澤航平記者)