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実録小説=勝ち組=かんばら ひろし=(15)

高炉と熱風炉(現在のもの)

高炉と熱風炉(現在のもの)

 今日は吉田さんの話の日で、勝次達も出席していた。吉田さんはブラジル人たちに技術的なことを分り易く説明してくれたが、通訳を通してのポルトガル語での所定の講義が済んだあと、希望者に更に日本語で話すことになった。
 自然、日系人ばかりとなり、吉田さんも直接日本語なので、色々とコース外のことを話してくれた。
「ミナスでは世界有数の良質の鉄鉱石を産出しているが、今はこれをただ鉱石のまま輸出している。一方、その原料を使って出来た鉄の製品、鋼板類、鋼材、機械類は外国から貴重な外貨を使って輸入している。ブラジルにとっては勿体無い話だ」
「ミナスに製鉄所を作り、近くで取れる鉄鉱石を使って鉄鋼製品を作れば地元に職場が増える。外国からの優れた技術の移転も出来る。今まで外国に払っていた外貨も使わなくてよくなる。国の経済も伸びて、生活水準を押し上げる。良いことずくめの訳だ」
「日本がこの国産化計画に協力して資金も出しましょう、技術も設備も提供しましょうと合意したのが、このミナス製鉄プロジェクトなんだ。両国政府が全面支援しており、日本とブラジルのナショナル・プロジェクトと言える。そういう意味からも、この建設工事がうまく行くよう、皆に頑張って貰いたい」
 勝次達、大部分の者は『成る程』と思った。単に給料を貰うだけの職場でなく、そのようにブラジルの為にも、自分の為にもなる、今までの農業国から工業国に発展さしていく大事な事業なんだ、そう思ったら心からやりがいが出てきた。
 吉田さんは更に続けた。
「このプロジェクトは一方日本にとっても十分なメリットがあるんだ。日本は不幸にして今回の戦争に敗れ、産業も製鉄も完全に叩き潰されて、しまった。日本の主な都市は爆撃で焼け野原になり、三流国、四等国に成り下がったとまで言われたんだ」
「しかしその後、日本人は苦しい中で資金を集め、先進欧米国に頭を下げて教えを乞い、そして血の出る様な努力を重ねて、今日、世界一流国に肩を並べられるところまで工業や製鉄の水準を押し上げて来た」
「日本としてはこの設備や技術を外国から認めて貰いたい。貿易で生きている日本は製品の市場も切り開かねばならない。この事業は欧米白人が世界一だと思っているブラジルで、日本の技術と日本の設備で鉄を生産して、その良さを世界に知らせる、そのための絶好の機会だとしている。日本の政府も一流企業もこれに参加してこの合弁事業を成功させたい、と力を合わせて努力している。そうして、この事業の成功を通して、何としても世界における日本工業の将来への展望を開きたい、そう願っているのだ」