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なぜイタリア系白人が日本移民一世を演じるのか

右が一世「田中カズオ」役のルイス・メロ、左が長女役のジョバナ。グローボのEgoサイトより

右が一世「田中カズオ」役のルイス・メロ、左が長女役のジョバナ。グローボのEgoサイトより

 8月29日からグローボTV局の午後6時台のノベーラ(帯ドラマ)「ソル・ナッセンテ」が始まり、日系二、三世の間でポレミカになっている。イタリア系移民家族と日本移民家族の絆を描く物語で、一世・父親役「田中カズオ」をインディオの血が入ったイタリア系三世俳優ルイス・メロが演じていること等に日系俳優らが疑問を呈している。グローボ的には「インディオの血が入っているから〃ほぼ東洋系〃」という解釈らしい▼同様に、田中家の長女「アリッセ」役を有名女優ジョバナ・アントネリが演じることにも批判が集まる。一世の多くは「この手の誇張や勘違いは昔から良くある。悪意がないなら、目くじらをたてるほどのことではない」と言う気がする。だが、ジョバナが髪留め代わりに箸を刺しているのを「髪にフォークを刺しているようなもの。普通はやらない」と批判する二世や、「同じことを黒人でやったら絶対に社会問題になる。でも日系では許されるのではオカシイ」「日系人はみな家で着物を着ていると誤解される」と困惑する三世の声も聞いた。彼らは一世より深刻にとらえている▼グローボ局のG1サイトのEGO8月31日付電子版には、脚本家ワルテル・ネグロンは当初、日系女優を使うつもりだったとある。《東洋系人材のテストは行われたが、主役級のステータスを持つ俳優が見つからず、商業的な決断で有名な女優の採用が決まった》と説明されている▼要するに、視聴率の獲れる有名女優でないと主役は任せられないということだ。ジョバナ級の日系女優はもちろん皆無だ。でもせっかく日系家族を物語の中心に据えたのなら、将来有望な俳優を発掘して登用する姿勢がほしかったと日系俳優陣が悔しがるのも無理はない▼ダニエラ・スズキの線もあったが結局は流れ、アリッセの従姉妹役に回った。つまり役不足なのだ。その他、田中家の3人姉妹の妹役にはジャケリネ・サト(ユミ役)、カロル・ナカムラ(ヒロ役)も登場する▼妹2人が本物の日系なだけに、ジョバナは「養子」という設定。ちなみに田中カズオ本人も、「日本生まれなのに西洋顔」の言い訳として「祖父がアメリカ人」という不思議な設定だ▼この件を扱ったエスタード紙(以後E紙)2日付電子版は、「一種の人種偏見ではないか」と問題提起する。米国では、白人俳優が顔を真っ黒にぬって滑稽な黒人を演じるのを「black face」と称して問題視する。ラテン系なら「brown face」だ。その東洋系版が今回の「yellow face」だという▼同E紙で山崎千津馨監督は、映画『Gaijin』では日系俳優探しに苦労して結局日本から連れてきたとの経験を述べつつも、《私だったら西洋系人材をジャポネースとして採用しない》と語った▼E紙では、大戦中の日本移民迫害への政府謝罪を求める運動をする奥原マリオさんもコメント。《このノベーラは「yellow face」、滑稽に描かれる日系人の戯画化そのもの。我々の身体的な特徴を誇張するこのやり方は、大戦中の枢軸国批判の時から使われてきた。日系人役は必ず〃ne〃を頻繁にしゃべる。日系人は控えめで、自分の感情をあまり表に出さないから、ずっと嫌な思いをしてきた》と述べた▼E紙には、田中カズオ役に金子謙一さんの名も挙がったが、81歳であるため「役に不適」と判断されたとある。当の金子さんはE紙の中で《実はあの役は90%僕に決まっていた》と明かすが、批判はしない。ただし《僕は同僚(メロ)を応援するだけ。でもきっと役作りで苦しんでいるだろうな。だって僕がドイツ人を演じるようなもんだろ。とても難しいよ》とチクリ▼1日から、そんな東洋系俳優が集まってユーチューブのチャンネル「Coletivo Oriente-se」(https://www.youtube.com/channel/UCwXP3LH4tWDNhc57eLN5zYg)を始め、自分達の存在アピールを始めた。さて、どうなることやら。(深)