12日、文化省で、来年2月にアメリカで行われる第89回アカデミー賞の外国語映画部門へのブラジルからの参加作品を発表する際、大きな騒動が起きた。
発表自体が非常に物々しい雰囲気だった。それは、選考委員会委員長のブルーノ・バレットが「友人と朝食の約束がある」と言い張り、発表会を欠席。結局、残った委員が発表したが、選出作品は、この時点では一般人はおろか国内の映画祭でも公開されておらず、一部の批評家以外は誰も目さえ通していない「ペケーノ・セグレード」だった。これが知れ渡ると、すぐさま不満の声がネット上で飛び交った。
それは、選ばれたのが無名の映画というだけだからではない。それは多くの人が、選ばれるべき作品は、国内外の批評家が既に大絶賛し、9月1日に公開された後も大ヒット中の「アクエリアス」だと思っていたためだ。この映画は今年5月のカンヌ映画祭にも出展され、主演のベテラン女優ソニア・ブラガの演技を中心に、欧米圏でも非常に高い評価を得ていた作品だった。
選考委員会は今回の選出作の選考理由を「芸術性と文学性」と説明したが、委員長が怒って現場を放棄したとしか思えない状況での発表では説得力もなかった。
そもそも、選出が行われる前から、多くの人の間では既に「アクエリアス」は選ばれないかもしれないという危惧もあった。それは、同作の出演者、製作者がカンヌ映画祭のレッドカーペットで「ブラジルではジウマ大統領を追いやるクーデターが起きている」というカードを持って抗議運動を展開したためだ。
ブラジルの芸能界は古くから、ジウマ氏が所属する労働者党との結びつきが強く、「アクエリアス」もジウマ政権下の文化省の出資で制作費がまかなわれていた。
ジウマ氏の罷免は、経済政策の失敗や労働者党の汚職スキャンダル故に国民の大半に支持されたもので、議会の罷免手続も最高裁判所が違法と見なすこともなく、9カ月間を費やして行われたものだ。このため、カンヌでの抗議行動は起きた当時にも国内から違和感をもたれ、強い反発も起きていた。抗議に参加したソニア・ブラガはアメリカ在住者でもあるので、「国の現状をわかっていない」とも批判された。
また、現在の文化省を仕切るのもジウマ政権ではなく、同政権の崩壊に動いた、副大統領だったミシェル・テメル現大統領の政権だ。
だが、いくら現政権を批判した制作者が作った作品であるとは言え、その感情を作品評価に絡めたり、世間から厳正さを欠くと判断され、疑惑を持たれるような行為を行うのは、芸術作品としての評価を行うべき機関として適切であるのか。その疑問が拭いがたいのは否定できない。
昨年の同部門の選出映画「キ・オラス・エラ・ヴォウタ」のアナ・ライムエルテ監督は、「これは(「アクエリアス」の監督の)クレベール・メンドンサ・フィーリョにとっての損害ではない。ブラジル映画界の損害だ」と言って批判した。ブラジル映画界には同様の批判をする人が多い。
このような物議の末に選ばれたことで、「ペケーノ・セグレード」にも気の毒な選出となったが、今となっては、エイズ患者で養女という少女の日常を描いたという作品の健闘に期待するしかない。(13日付エスタード紙より)