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実は政府自身がインフレの原因か?

左表にあるとおり、ジウマ政権末期は税収大幅減だが歳出を減らさず、昨年10月から今年2月までが最悪のインフレ率になった

左表にあるとおり、ジウマ政権末期は税収大幅減だが歳出を減らさず、昨年10月から今年2月までが最悪のインフレ率になった

 ブラジルの政治、経済を理解するには「本当の因果関係」を見極める必要がある。経済動向を見るのに最も重要なのは「インフレの原因」をどう考えるかだ。ジウマ前大統領をはじめ、政治家は一般に「インフレのせいで経済は悪化した」というニュアンスで演説する。「政府のコントロールを越えて勝手にインフレが進行する」というイメージで語る。これに違和感を覚えるのは、コラム子ばかりではないだろう。
 軍政末期しかり、ジウマ政権しかり。ブラジルでインフレが増進する時には必ず財政バランスが崩れ、収入に見合わない政府支出の極大化がみられる。収入以上にお金を使うには、その分の国債発行が不可欠であり、結果的に金融市場のマネーが極大化する。それがインフレの最大要因の一つだと感じる。つまり、本当は政府自身がインフレの原因を作っている。
 一旦インフレ気運が始まると、楽だからとすぐに同調する企業が出てくる。商品を値上げする言い訳を政府が与えてくれたと思って喜ぶのだろう。そうなると止まり辛くなる。
 インフレを止めるには、発端である「政府支出」を抑える強い意思表示が必要だ。
 ジウマ政権で10%を超えるインフレになったのは、ミンニャ・カーザやボウサ・ファミリアに代表されるバラマキ的な社会福祉政策の出費が大きい。半分は選挙政策ともいわれるものであり、PTは北伯・北東伯の貧民層からの絶大な支持を得るようになった。これらを減額することは政権基盤を揺るがすことであり、どんなに財政が苦しくても、増やしこそすれ減額はありえない。
 その結果、不況で税収が激減しても、支出は増え続ける悪循環に陥った。ジウマは口では「インフレ撲滅」を唱えながら、足では財政出動のアクセルを思いっきり踏んでいた。金を調達するには国債を発行して誰かに買ってもらうしかない。買ってもらうには基本金利(Selic)を上げるしかない。その結果、基本金利に連動した国債の利率は最大年率20%近い利回りとなり、国内外から喜んで買われる。でも、いつかその利子は償還しなければならない。現在のツケを未来の政権に押し付けているだけだ。
 テーメル大統領は先週、改革の大黒柱の一つ「年金改革」の審議を来年後半に延期すると発表した。これは、女性の年金受給年齢を65歳に引き上げるなどの典型的な〝不人気政策〟であり、連邦議員は選挙民の反応を考えれば「永遠に延期」にしたい政策だ。だが、いつかは改革しないと年金システムが破たんすると大半の議員は分かっている。
 今週はもう一つの柱だった「労働法改革」も来年後半に延期した。なぜテーメル政権がこれらを譲歩したかといえば、「政府支出上限設定政策」を最優先事項と決断したからだ。「政府支出は前年のインフレ率を超えてはいけない」という単純な話。つまり「収入以上の支出をしてはいけない」。政府支出に上限が設定できればインフレ抑止になる。為政者が起こしてきたインフレだから、州政府を巻き込んで、自分で自分に足かせをはめるわけだ。
 この法案が通れば、インフレは沈静化するだろう。沈静化すれば基本金利(Selic)は下がる。そうなれば、企業は資金を調達しやすくなり経済が活性化する基盤が整う。好況に向かえば雇用は増大、税収も増える。マーケットは将来を楽観して株は上がり、外国投資も増える。もちろん、この法案ですべてが解決に向かう訳ではない。ただ、最低限の条件は揃う。いわば、経済政策の根本部分だ。だからテーメルは最優先事項としてこれを選んだ。
 でも多くの議員が「上限法案」に反対する。議員は「多くの予算を自分の支持層に与える」ことで支持を得ている。それに上限を付ける訳だから議員は嫌がる。テーメルの手腕の見せ所だ。(深)