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テメル新大統領のパ国初訪問=10月に課題盛りだくさん=べ国マドゥロの末期的な罵詈雑言=パラグァイ在住 坂本邦雄

物議をかもしているベネズエラのマドゥロ大統領(Foto: Freddy Zarco/ABI, 13/10/2015)

物議をかもしているベネズエラのマドゥロ大統領(Foto: Freddy Zarco/ABI, 13/10/2015)

 パラグァイ外務省と駐巴ブラジル大使館の共同発表に依れば、テメル新大統領は、地域諸国の中では初めての外遊先となるパラグァイを来る10月3日(月)に公式訪問する事になった。その目的はイタイプー、貿易、インフラ整備やメルコスール等の盛り沢山な諸問題の見直しの検討にあり、カルテス大統領との精力的な首脳会談が予定されている。

 パラグァイ外務省は、「テメル大統領の随員メンバーにはジョセ・セーラ外務大臣の他に各関係閣僚や複数の連邦議員が数えられ、今回の訪問は巴伯両国間の緊密な友好関係を正に反映するもので、地域諸問題に対する両国共通の協力・協調姿勢を雄弁に物語るものに他ならない」と評価した。
 これら懸案の中での優先課題は、2023年に期限が切れる、イタイプー巴伯双国水力発電事業協定の付属約定アネックス「A」の取扱いに関する、財政基盤、サービス提供やプラントの生産電力供給条件等の見直し事項がある。
 その他、広範に及ぶ日程には通商、新国際大橋の架橋インフラ工事、対国際組織犯罪との共闘、技術及び軍事協力などがあり、更に地域の懸案課題としては、異端児ヴェネズエラの為に生じている厄介なメルコスールの危機的な論争問題がある。

メルコスールの問題

 EFE電によれば、モンテヴィデオ市で、ブラジルの元大統領(1995―2002)フェルナンド・ヘンリケ・カルドーゾ氏は、南米南部共同市場(メルコスール)が正常に成長する為には、他の共同体や地域ブロックとメルコスール加盟国が、もっと自由に柔軟な交渉が出来る様に機構規制の改革が求められると発言した、と報じられる。
 つまり、「メルコスールは大変重要な共同体であるが、その硬直した組織が加盟国夫々の発展を阻止するものであってはならない」と。
 ついで、「一方、その為の定式・基準(レシピ)を要するが、またこれがブロックの権利に矛盾するものであってはいけない。近代の時勢はもっと妥当な適応性を求めている」と言うものである。
 このヘンリケ・カルドーゾ元大統領の発言は、ウルグアイのタバレ・バスケス大統領が、ブラジルのテメル大統領の黙認で、メルコスールの加盟国でありながらも中国との二国間交易条約の交渉を促進している事実にそれとなく触れたものである。
 ちなみに、メルコスールの決議書第32/2000号は、「メルコスール加盟国は、第三国との貿易はブロック一体として交渉すべきものとし、単独での折衝は認めないものとする」と厳に拘束しているのである。

マドゥロが暴言を連発

2015年12月21日のメルコスル首脳会議(Foto: Roberto Stuckert Filho/PR)

2015年12月21日のメルコスル首脳会議(Foto: Roberto Stuckert Filho/PR)

 ヴェネズエラのマドゥロ大統領はメルコスールの基本原則を軽視し、「我がヴェネズエラこそがメルコスールの魂である」と同ブロックの精神たる通商自由主義を問題にし、「しかし他のメンバー諸国がヴェネズエラを表口から追い出すなら、再び裏窓から押し入るのにやぶさかでは無い」と暴言し、「我がヴェネズエラは正にメルコスールの真髄である」と主張した。
 これはメルコスール創立メンバー国のパラグァイ、ブラジル、アルゼンチンと、最後には同調したウルグァイが、メルコスールの輪番議長国に当るヴェネズエラに対し、会員国資格を停止すると伝達した処置に、マドゥロが猛烈に反発したものである。議長国就任を拒んだ理由は、メルコスールの基本たる「民主憲章」の条件を充たさないためで、12月1日までに加盟国としての必須条件を整えない限り、認めないというもの。
 既にマドゥロは、先にもブラジル、パラグァイ、アルゼンチンがヴェネズエラの輪番就任に反対したのに対し、「右傾堕落化した三国同盟陰謀」だと非難した。巴国には悲壮な思い出の「三国同盟戦争」を引例する発言で、パラグァイ人の神経を逆撫さかなでしたのであった。
 そして、「当然、ヴェネズエラがメルコスールの輪番議長国を務めるべきである事に疑いはない。それなのに、今度は我々をメルコスールから追放すると言うお達しである」とし、「資格停止」を「追放」と誤解し憤懣やる方ない様子で、「誰もヴェネズエラをメルコスールから追い出す事は出来ない!」と毒づいた。
 ちなみに、ヴェネズエラは2012年に、パラグァイが違法にメルコスール加盟国の資格を剥奪された機に、正に「裏窓」を破ってメルコスールの会員国加盟を果したのだった。
 この不規制行為の間違いを後に明らかに認めたのは、誰あろう他ならぬボリバル主義シンパのドン・ぺぺ・ムヒカ元ウルグァイ大統領だった。
 なお、メルコスール共同体の目的である自由貿易を批判したのは、マドゥロのメルコスールに関する知識の欠如を暴露したものである。

支離滅裂な言い草の数々

 次いで、故チャベス大統領が後継者に選んだ、市内バスの元ドライバーだったマドゥロは、「単にヴェネズエラを追放するに限らず、告訴する事まで考えているのだ。要はメルコスールを絶滅し、ALCA・米州自由貿易地域を通じてアメリカに渡す意図なのだ」と語った。
 更にマドゥロは続けて、「ファッショ陰謀の三国同盟を形成するパラグァイ、ブラジル、アルゼンチンの右派新自由主義、反人民主義、親帝国主義の各政府が果たそうとしている策略は、実に名状し難いものである」とマドゥロはその全ての概念の不規則にして、支離滅裂な評価を並べ立てるのである。
 ここで、英国の大宰相ウインストン・チャーチルがかつて左派を評し、述べた名言を思い出して見たい。
 それは筆者のスペイン語からの和訳が良いか悪いかは別とし、次ぎの通りで興味深いものがある。
 すなわち、『社会主義は失敗の哲学で、羨望の説教である。その固有の取柄(とりえ)は、悲惨を一般に平等に配分する事にある』と言うものである。
 どうもこれは、マドゥロ政権下のヴェネズエラ国現下の政経情勢に、いみじくも当てはまる様な気がする。