2日に行われたサンパウロ市長選において、過半数の53%の票を稼いで当選を決めたジョアン・ドリア氏。通常は必ず接戦になる同市の選挙で、ここまでの大差が、しかも新人政治家でついた事実には、全国から注目が集まっている。
現在58歳のドリア氏は、サンパウロを代表する富豪として知られていた。こうした「企業家出身の政治家」と言えば、最近ならすぐ思い起こされるのは、現在、世界中で話題を呼んでいるアメリカ大統領選の共和党候補、ドナルド・トランプ氏だが、実は、ドリア氏はトランプ氏を有名にしたのと同じテレビ番組に出演した共通点がある。
とは言え、それは「番組で共演した」と言う意味ではない。ドリア氏は「トランプ氏を全米で有名にした番組のブラジル版」に出演したことがある、ということだ。
トランプ氏を有名にした番組と言えば、リアリティ・ショーの「アプレンティス」だ。これはNBCで2004年にはじまった番組で、ある何人かをトランプ氏の経営する不動産企業に見習いとして働かせ、毎週一人ずつを解雇させ、誰が最終的にトランプ氏のめがねにかなって採用させるかを決める番組だ。当初、見習い役は一般視聴者だったが、2007年にそれを有名人に変えた「セレブリティ・アプレンティス」などに変えたりして話題となり、長寿番組となっていた。
この「アプレンティス」は、本国アメリカでの放送開始からほどなくして、ブラジル版製作がレコルデ局で行われている。ブラジル版ではトランプ氏の役を、広告業界の大物であるロベルト・ジュストゥス氏がつとめていたが、2010年と11年の2年間だけ、この役をつとめたのがドリア氏だった。
ドリア氏は自身の企業「ドリア・グループ」でマーケティング業界の大物となっているが、それ以前にもビジネス系の番組で司会をつとめた経験があり、テレビではおなじみの顔でもあった。
そんなドリア氏だが、「富豪企業家出身ということでトランプ氏に似ているか」と問われれば、そうともいえない。父親からの不動産業を継いでそれを大きくしたトランプ氏とは異なり、ドリア氏は生まれこそ下院議員の息子であるものの、7歳のときに起きた軍人によるクーデターで、反軍政の立場を取った父が議員を罷免され、一家はパリに亡命をしている。
これ以来、ドリア氏は本人の言葉を借りれば、「14歳から働き詰め」という勤労精神で、現在に至るまでの地位を築いている。
ドリア氏には、トランプ氏のような、人種差別や性差別を疑われるような言動はこれまでのところ一切ない。また、サンパウロでの市長選キャンペーンでは、医療・保健、治安、交通の問題などに対して、現市長や元市長を含む今回の候補以上に正攻法で取り組む姿勢を見せ、他候補の足の引っ張り合いに走ってしまった他の候補を寄せ付けない圧勝となった。
気になるところと言えば、バックアップしたサンパウロ州のジェラウド・アウキミン州知事が「職権を濫用してドリア氏を推した」と訴えられていることや、企業家としていくつかの訴訟を抱えていることだ。ブラジルではラヴァ・ジャット作戦で国全体が揺れただけに、あとはそうした汚職で足をすくわれないことを願いたいところだ。
ちなみに、「ブラジルのトランプ」と称される人物は実際に他にひとりいる。それは、リオ選出の下院議員で最高得票を取ったジャイール・ボルソナロ氏だ。軍政礼賛や人種差別・女性差別的発言などでも知られる同氏は、18年の大統領選出馬を狙っているともいわれている。
タグ:アウキミン 汚職 写真ニュース ラヴァ・ジャット サンパウロ ボルソナロ