2014年3月以来、ブラジルのメディアを連日のようににぎわせているラヴァ・ジャット作戦(LJ)。ジウマ前大統領罷免の間接的な要因となったほか、エドゥアルド・クーニャ下院議長の議席剥奪の直接的原因、さらにブラジルを経済繁栄に導いたはずのルーラ元大統領の関与も強く疑われるなど、ブラジル政治史のみならず、世界の政治史で見ても、最大規模の汚職事件となっているが、その劇的なドラマ性が見込まれ、早くも、国際的なテレビドラマとしてのシリーズ化にゴーサインが出されている。
白羽の矢を立てたのは、現在、ネット上の有料動画配信サービスで世界最大規模の会員数を誇るネットフリックスだ。ここでは、映画や放送局で放送済みのドラマの配信だけでなく、自社製作のオリジナル・ドラマも制作しており、LJは世界中の会員向けドラマの題材として、4月に同社の了承を得ている。
それが実現した背景には、ネットフリックスが制作した、コロンビアの麻薬王、パブロ・エスコバルの伝記ドラマ「ナルコス」が現在、成功していることがある。さらにその監督をつとめているのがブラジル人映画監督のジョゼ・パジーリャだからだ。
LJのテレビドラマ化もパジーリャありきで進んでいる企画で、2017年のシリーズ開始に向け、現在、配役が進んでいる。
だが、ここでひとつ、大きな問題に直面している。それは、おそらくこのドラマの主役格になるであろうと思われる、セルジオ・モロ判事を誰にやらせるかが決まらないことだ。
当初、この役は、「ナルコス」で主演を務めるブラジル人ナンバーワン俳優のヴァギネル・モウラに依頼されることになっていた。だが、モウラがそれを断ったのだ。
それはモウラが、ジウマ前大統領、ルーラ元大統領の政党である労働者党(PT)の熱心な支持者であるためだ。相手が政界で影響力のあるPTの政治家であろうと、ひるむことなく厳しい裁きを行い続け、今ではアメリカのメディアにまで「世界で最も影響力のある100人」に選ばれるほどにまでなっているモロ氏は目の上のたんこぶのような存在だ。
さらに困ったことには、ブラジルの芸能界では伝統的に、左翼のPTを支持する勢力が強い。反PTの俳優も存在しないことはないが、PTを支持する俳優の多くが、ジウマ氏が罷免の危機に立たされた際、罷免への動きを「クーデター」と呼んで抗議運動に参加。罷免に賛成している6~7割の国民の芸能界に対する感情を悪くする結果にもつながっている。
さらなる報道によれば、モロ判事役の第2候補だったロドリゴ・ロンバルディにも断られたといい、相応しい役者が見つからない状況だ。
パジーリャ監督は3月に行われたヴェージャ誌の取材で、「PTとの関係を断ち難いのはわかるが、現実と向かい合わなくてはならないときだ」と、芸能界に覚醒を呼びかけたが、その声は果たしてブラジル芸能界に届くのか。
また、ジウマ氏、ルーラ氏、クーニャ氏など、実在する政治家をドラマで表現する際、名誉毀損などの問題に発展しないかも気になるところだ。
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